新時代の「セルフメディケーション」
健康・ダイエット・エクササイズ
舌の筋トレ、口の開閉運動…お口のセルフケアで誤嚥性肺炎を減らす
肺炎は日本人の死因3位…「口は健康の入り口」痛感
肺炎は現在、がん、心疾患に次いで、日本人の死因の3位だ。肺炎で亡くなる人のほとんどが65歳以上で、誤嚥性肺炎が多くを占める
今年4月の介護報酬の改定では、介護施設での口腔ケアを進めるため、歯科医や歯科衛生士が指導などを行った時の施設への介護報酬が新設拡充された。口腔ケアによる誤嚥性肺炎予防の取り組みは少しずつ広がってきたが、「常識」となるまでに長い年月がかかった。
米山さんは2か所の特養を指導に訪れ、春秋の年2回、介護士に口腔ケアの研修を続けてきた。そのうちの1か所とは38年の付き合いだ。「2つの施設では、肺炎の患者はほとんど出ません。インフルエンザや風邪にかかる入居者も明らかに少ないようです。口は健康の入り口ということを痛感しています」と話している。
口腔ケアによる誤嚥性肺炎の予防は、要介護高齢者に限らず元気な高齢者にとっても大切なことは言うまでもない。
摂食嚥下リハビリで脳卒中後遺症を改善
時代に先んじて全身の健康に関心を寄せてきた米山歯科クリニックでは、虫歯や歯周病の管理に加えて、口腔機能の低下を防ぐための唇や舌の体操指導のほか、脳卒中や神経難病の嚥下や発声のリハビリも行っている。「脳卒中など病後のリハビリは、退院した後の患者さんの引き受け手が地域にないので、取り組むようになりました」と語る。
近くに住むTさん(78)は、4か月に1度診療所を訪れる。11年前に脳梗塞で倒れて、右側に片麻痺が残って以来の付き合いだ。当初2週間の入院、リハビリ病院で3か月過ごした。家に戻ったが、ご飯や水でむせるし、口角からよだれがたれ、思うようにしゃべれなかった。入れ歯や口の衛生状態も悪かった。Tさんの娘さんから「いつも苛立っていて、会話が少なくなりました。なんとか良くなりませんか」と相談されて引き受けた。
当初は月2回、診療室でリハビリを始めた。咀嚼嚥下や発声のリハビリ方法は確立したものがあるが、米山さんと歯科衛生士の鈴木里保さんらは、患者が自宅でも取り組みやすいものを考えて、十数種類のメニューを組み立てた。
Tさんは「最初は動けないし、しゃべれないし、死んじゃった方がましだと思いましたよ。でもね。ここでちゃんと診てくれるのは嬉しかったね」と振り返る。今も続けているメニューをいくつか紹介しよう。
お口の体操で飲み込み改善
まず、つばを飲み込む「空嚥下」。30秒で3回できればOKだが、麻痺の影響が強く残っていた当初は難しかった。
続いて、食べ物が誤って気管支に入っても出せるよう、「ハッ」と勢いよく声を出すせきの練習。数回繰り返すと、次は首を前後、左右に動かし、肩を上げ下げして飲み込む機能にかかわる上半身の筋肉をほぐす。
舌は、食べ物をかんで飲み込む際に大きな働きをするので、「舌の筋トレ」も行う。前後、左右、上下に動かし、舌打ちもする。健康な人なら難なくできる動きだが、麻痺が出たり、入院して口から食べるのを中断したりした後には、こうしたトレーニングで機能を回復するのがとても重要だ。
次に「あー、んー」と声を出しながら口の開閉運動。「うー、いー」は口を前に突き出し、横に引く。口の動きは誇張して大きくする。「口のまわりの口輪筋のトレーニングです。緩んでくるとほほや舌をかんだりしますが口の機能低下の入り口です。それを防ぐ運動です」と、鈴木さんは説明する。
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