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新時代の「セルフメディケーション」

健康・ダイエット

舌の筋トレ、口の開閉運動…お口のセルフケアで誤嚥性肺炎を減らす

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 歯を磨き、フロスで歯の間を掃除するお口のケアは、虫歯だけではなく、歯周病の予防にも不可欠だ。口内の歯周病菌が全身に回り、糖尿病、心筋梗塞などの心血管疾患、肥満、認知症、リウマチ、肺炎などの原因になったり、症状を悪化させたりする。

 超高齢時代を迎え、口腔こうくう機能が低下して「よくかめない」「飲み込む時にむせる」といった症状が表れて、低栄養や誤嚥ごえん性肺炎を招くケースも増えている。お口のセルフケアは、「虫歯」「歯周病」「口腔機能」という3つの点から、その重要性が再認識されている。

特別養護老人ホームで口腔ケア指導…誤嚥性肺炎が減った

「口腔ケアで食べられるようにすれば、栄養が取れて、寝たきりを減らすことができる」と言う米山武義さん。訪問診療も行っている

 東海道新幹線の三島駅からほど近い静岡県長泉ながいずみ町にある米山歯科クリニックは、歯科医3人と歯科衛生士7人が働く歯科医院。地域での訪問診療や、特別養護老人ホーム(特養)の口腔衛生指導にも当たる。院長の米山武義さん(63)は、1999年に発表した研究が国際的に注目を集め、その論文は現在でも重要な文献として歯科医療の現場に大きな影響を与えている。

 「特別養護老人ホームで、歯科衛生士がケアをすると誤嚥性肺炎の発生が4割減少した」。

 お口のケアを徹底すると肺炎を減らせることを示した研究論文は、世界で最も評価の高い医学誌のひとつ「ランセット」や、アメリカの老年医学会雑誌で取り上げられた。当時から、アメリカなどでも高齢者施設では誤嚥性肺炎の頻度が高いことから、その対策が課題になっていた。

 米山さんが研究を始めたきっかけは、特養での口腔ケア指導だった。予防歯科の先進国・スウェーデンに留学後、大学で歯周病の研究をして、1991年に現在の診療所を開業。月2回、特養を訪れるようになった。「入居者の口の中を見ると、細菌の塊・バイオフィルムがべったりとついているので、歯だけではなく舌も含めて掃除を指導しました。介護のスタッフは大変だったと思います」

 お口のケアを始めると、刺激のある口臭が消え、部屋の臭いが一変したという。そして数年経た時に、この施設の看護婦長に言われた。「口腔ケアに取り組むようになったら、発熱を起こす人がすっかり減りました」。

論文を発表、海外で注目…後期高齢者の激増、国内でも関心

 米山さんは「本当にそんな効果があるのか」と思い、それを確かめるために研究に乗り出した。研究グループを作って、全国の11施設の計336人を対象に、歯科衛生士がきちんとケアするグループと、これまで通りの介護士による日常のケアを受けるグループに分けて、2年間経過観察した。すると、期間中の肺炎発症は、通常ケアの34人に対して、歯科衛生士による専門家ケアを受けたグループは21人と、4割少なかった。発熱の発生は半分だった。

 米山さんは「誤嚥性の肺炎を起こしやすい人は、夜寝ている間に口の中の歯周病菌が肺に落ちていって肺炎を起こすんです。抗菌薬で治療しても、歯周病という元を断たないと何度も繰り返すことになります。逆に口の中をきれいにしていけば、肺炎を減らすことができることがはっきりしたのです」と説明する。

 こうして発表した論文は、海外では注目を集めたが、当時、日本の歯科の世界ではあまり関心を呼ばなかったという。「歯科インプラントがどんどん広がっている時代で、歯科医の間では、高齢者の肺炎への関心は高いとは言えませんでした。口腔ケアに力を入れる施設も出てきましたが、その重要性が広く認識されるようになったのは、後期高齢者が激増してきた最近になってからです」と言う。

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