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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

重い水頭症に加え、キアリ奇形で呼吸が困難な赤ちゃん 「この手で助けてください」と、父は涙を流し…

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 新生児科の先生から連絡を受けたのは、定時の小児外科の手術がすべて終わった昼下がりでした。新生児集中治療室(NICU)に赤ちゃんが緊急入院したのですぐに来てほしいと言います。私たちはNICUへ急ぎました。

頭の中が水に置き換わった状態

 赤ちゃんは、開放型の保育器にうつ伏せに寝かされていました。体重が2000グラムもないことは一目で分かりました。そして背中には脊髄髄膜 (りゅう) (二分脊椎)があり、瘤の中に脊髄神経が飛び出ているのが見えました。瘤からは髄液も漏れ出しています。赤ちゃんの顔色はやや土気色で、唇にチアノーゼがあります。小さく速く、あえぐように呼吸をしています。口元には酸素が吹き流し(酸素マスクを密着させない状態)になっていました。

【名畑文巨のまなざし】ポジティブエナジーズ(その6) 世界をめぐり撮影したダウン症の子どもたちはみな、ポジティブなエネルギーにあふれていました。前回もご紹介した南アフリカの1歳2か月の赤ちゃん。ママから離れ、パパに抱っこしてもらったら、少し怪訝(けげん)な表情になって、やがて泣き顔に……ママっ子なんでしょうかね。パパは苦笑いしていました。南アフリカ共和国プレトリア市にて

【名畑文巨のまなざし】
ポジティブエナジーズ(その6) 世界をめぐり撮影したダウン症の子どもたちはみな、ポジティブなエネルギーにあふれていました。前回もご紹介した南アフリカの1歳2か月の赤ちゃん。ママから離れ、パパに抱っこしてもらったら、少し怪訝けげんな表情になって、やがて泣き顔に……ママっ子なんでしょうかね。パパは苦笑いしていました。南アフリカ共和国プレトリア市にて

 「二分脊椎ですね」と私の上司が(つぶや)きました。

 すると新生児科の先生が、困った表情で口を開きました。

 「それよりも問題は脳です。水頭症が相当、重度なんです」

 そう言ってその先生は、超音波検査の探触子(プローブ)を赤ちゃんの頭に当てました。確かに水頭症です。でも、ただの水頭症ではありません。頭の中が水に置き換わっているような状態で、大脳は薄く引き伸ばされています。二分脊椎では水頭症を合併することがよくありますが、ここまで重度の水頭症を私は診た経験がありませんでした。

 新生児科の先生が話を続けます。

 「超音波検査ではこれ以上はっきりしたことは分かりませんが、MRI(磁気共鳴画像)検査をやってみれば、キアリ奇形があるかもしれません」

延髄が背骨の方に引き込まれ、呼吸が止まる危険

 キアリ奇形とは、二分脊椎に伴って小脳や延髄が頭蓋内から背骨の方へ引っ張り込まれ、その結果、延髄が圧迫を受けて呼吸などが止まってしまう危険のある状態を言います。

 現在は、小児脳神経外科の進歩が著しく、キアリ奇形に対しても有効な外科手術が行われるようになっています。しかし、私がこの赤ちゃんに出会った時には、まだまだそうした手術は広まっていませんでした。

 「手術の適応はあるんでしょうか?」と、新生児科医が問いかけてきました。

 「ちょっと考えさせてください」

 私の上司は険しい表情になりました。私たちはいったん、小児外科の会議室へ戻りました。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

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