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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

診断の「決定打」がない…科学的実証主義だけでは対応できない「化学物質過敏症」

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医学は万能ではない…状況証拠や医師の推察からの診断を軽視しないこと

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 全身に及ぶ不調は、化学物質過敏症のほかにも、慢性疲労症候群、線維筋痛症など種々の病名があります。いずれも、状況証拠や医師の推察から診断がつくものですが、共通の検査所見や症状といった、診断への「決定打」はありません。

 このため医師の中には、こうした病気の存在そのものに懐疑的な見解もあります。とはいえ、つらく厳しい症状に日々苦しむ患者を前に、「決定打」がないからといって、医師が無視をしたり、診察を拒絶したりすると、行き場を失った患者が、 (もう) け主義の民間療法や宗教まがいの行為に引っかかってしまいかねません。

 臨床医は科学者の端くれを自認しているので、一流の学術誌に掲載された実証的な事項は重視しても、そこでは認められていない、目の前の患者から把握できた状況証拠を軽視する傾向があります。

 でも、診断にいつも確度の高い科学的根拠を求めようとしても、現代医学の浅い歴史の中では、まだまだ研究が不足しているのです。そのことを、専門家も一般の皆さんも知らなければなりません。医学が万能ではない現在、推定診断を軽視してはならないのだと思います。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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