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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

診断の「決定打」がない…科学的実証主義だけでは対応できない「化学物質過敏症」

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 AI(人工知能)など新しい技術が台頭する現代でも、原因がわからない病気があります。その中で、科学的証拠は不十分でも、状況証拠や、医師としての経験や勘から、「こういう病態に違いない」と診断する病気は結構あるものです。

 その一つに、化学物質過敏症があげられます。

「目のピントが合わない」「目を動かすと気分が悪くなる」…症状様々

診断の「決定打」がない…科学的実証主義だけでは対応できない「化学物質過敏症」

 化学物質過敏症は、20世紀の中頃から米国などで研究が進みました。2009年からは、医療機関が診療報酬を請求する時に使う病名を示す厚労省の病名リストに加えられました。シックハウス症候群、シックビルディング症候群もこの仲間と考えられます。

 私の外来にも、化学物質過敏症の患者が10人近く来ています。

 このうち3人は、1995年に起きた地下鉄サリン事件の被害者です。あの神経毒にさらされて一命はとりとめたものの、さまざまな化学物質に対して過敏になり、苦しんでいます(拙著『絶望からはじまる患者力』に詳述しています)。

 ほかのケースは、新築住宅に住んで1年以内に発症したり、民間療法で使った化学物質をきっかけに発症したりというものです。新築住宅の場合、建材や壁などからさまざまな化学物質が出てくるためです。

 目の症状は、「目のピントが合わない」「光に過敏」「 (まぶた) や顔が引きつる」「目を取りたいほど痛い」「目に蓋をされるような感覚」「視野が狭く感じる」「目を動かすと気分が悪くなる」など、人によってさまざまです。

医師が気付かず鎮痛剤を処方…かえって状態悪化

 こうした情報は、私のところは眼科外来なので、聞き出さないと得られません。詳しくたずねると、「手足のしびれや違和感がある」「転びやすい」「浮遊感がある」「においや音に過敏になっている」「飲み込みにくい」「口の中をかみやすい」「 動悸(どうき) や息切れがある」など、まちまちです。

 中には、手足のことは整形外科、耳やのどのことは耳鼻咽喉科、動悸息切れは内科に行かなければならないと考えて、あちこち受診している人もいます。

 一方で、診察した医師が化学物質過敏症だとは気づかず、時には鎮痛剤や精神安定剤などを処方したため、患者さんの状態がかえって悪化している場合もあります。

 全身に及ぶ不調について、なかなか適切な診断に至らないのは、診療科が臓器ごとの縦割りだからでしょう。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「健康は眼に聞け」「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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