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データ改ざん対処 新法施行…臨床研究 他者がチェック

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データ改ざん対処 新法施行…臨床研究 他者がチェック

 医師らが医薬品や医療機器などを人に使用し、安全性や有効性を確かめる臨床研究の手続きを定めた「臨床研究法」が今年4月に施行された。この法律は、2013年7月に発覚した高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件を受け、研究の透明性を高めるために作られた。ただ、手続きの負担が重くなり、研究が止まってしまうとの懸念の声も現場から上がっている。

 この法律の対象は、医師や歯科医が主体となって治療や診断、予防方法の改善などを目的に行う臨床研究。企業などが新薬や医療機器の開発と販売を目的に行う臨床試験(治験)は、すでに医薬品医療機器法に基づく法規制がかかっているため、臨床研究法の対象から外されている。

 こうした臨床研究は従来、厚生労働省が定めた倫理指針に沿って行われてきた。しかし、指針通りに行われているかどうかのチェックが不十分なうえ、たとえ指針に違反しても罰則がなく、実効性に欠けるなどの反省から今回、臨床研究法が定められた。

 これにより、製薬会社が臨床研究に資金提供する場合、医療機関と提供額や支払時期など契約を結び、インターネットで提供額などを公表するよう義務付けられた。

 臨床研究を実施する医療機関は、計画を審査する組織として新たに、外部の生命倫理や法律の専門家などで構成する厚労省認定の臨床研究審査委員会を設けることになった。従来の指針に基づいて病院長の下に置かれた倫理審査委員会よりも客観性を高めた。

 監督にあたる厚労省の権限も強化された。法律違反が確認されれば、研究責任者に改善命令を出すほか、健康被害を及ぼす恐れがある場合は研究の緊急停止を命じられるようになった。

 特に現場の医師らの目を引いているのが、臨床研究が計画通りに行われているかどうか、実施中と終了時のチェックを行うのは担当の医師とは別とするとしたことだ。

 ある大学病院の医師は「製薬会社から資金を得られず、医師が細々と自主的に行ってきた研究は、そのために新たに人を雇うか、外部への発注を迫られるため、資金難で中止に追い込まれるケースが出てくる」と明かす。

 複数の医師は、これまで自分たちが無給で担ってきた作業を、法律に沿って他者に有給で担ってもらうには臨床研究1件当たり数千万円の費用がかかると見積もる。ある医師は「あの事件のせいで、医師が行う臨床研究は全て質が低くて疑わしいものだと思われてしまった」と肩を落とす。

  <臨床研究データ改ざん事件>  脳卒中などに対するディオバンの予防効果の検証を目的に5大学で行われた臨床研究の一部で、有利な結果になるようなデータの改ざんが確認された。5大学には販売元のノバルティスファーマから寄付金が支払われ、データの解析などに同社社員が携わっていた。

資金難で研究中止も

 臨床研究を実施する中核病院として国から指定されている、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)は、各部署に分散していた臨床研究支援組織を15年に一本化。臨床研究計画の作成やデータの管理・解析、研究に参加する患者や家族への相談などにあたる専門家約100人が所属している。

 組織の責任者で副院長の藤原康弘さんは「全国トップレベルの臨床研究の支援組織だが、それでも人員と資金が足りない。他の医療機関や研究機関はもっと厳しいはず」と明かす。現在取り組む約200の臨床研究のうち、続ける研究と、成果が芳しくなく、やむなく中止する研究の仕分けを進めているという。

 藤原さんは「厳しい規制で臨床研究の質を高めるのが法律の狙いだが、研究はすぐに成果が上がるものばかりではない。規制と同時に投資も増やす必要がある」と話す。

 臨床研究の法規制に詳しい生命倫理政策研究会共同代表の ●島(ぬでしま) 次郎さんは「現場の混乱は、これまでの手続きが甘かったツケが回ってきたとも言える。ただし、欧米などの関係法令では治験と他の臨床研究を分けていない。別々の法律では手続きが煩雑になり、現場の負担が大きい。日本も一つの法律にまとめた方がわかりやすく、患者にも信頼されやすくなる」と指摘している。

 (原隆也)

 ※●は木へんに勝

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