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医療・健康・介護のコラム

『刑務所しか居場所がない人たち』 山本譲司著…生きるため、罪を犯す障害者の問題を訴え(上)

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 罪を重ねて服役を繰り返す障害者の問題に取り組んできた、元衆院議員で作家の山本譲司さんの新著『刑務所しか居場所がない人たち』(大月書店、1500円税別)が出版された。福祉の手が届かず、生きるために罪を犯す障害者の問題について、中高生向けにやさしい文体でつづっている。自身が秘書給与流用事件で服役した経験から、罪に問われる障害者の支援や矯正行政を巡る課題に取り組む中で、いま若者に何を伝えようとしているのか。狙いを聞いた。(ヨミドクター 飯田祐子)

「入り口」と「出口」から再犯防止

 ――1年2か月にわたる獄中生活を描いた『獄窓記』(2003年)で、刑務所には心身に障害のある受刑者がたくさんいて、出所しても居場所がないために、また罪を犯して戻ってくることを広く知らせました。通常の作業ができない障害者と高齢者を集めた「寮内工場」には、食事や排せつに介助が必要な受刑者も収容され、刑務所が“福祉施設化”している実態は、衝撃的でした。

 「寮内工場の指導補助として、下の世話も含めて受刑者仲間たちのお世話をするのが私の役目でした。そこには、認知症や知的障害、精神障害、発達障害、視覚障害、聴覚障害など、実に様々な障害のある人が集まっていました。全国の刑務所全体でみると、知的障害の疑いがある受刑者が非常に多く、実に5人に1人に上っています」

 ――出版から15年、この問題について、著作や講演で訴え続けてきました。その間、状況にどんな変化がありましたか。

 「2006年に監獄法が全面改正されて受刑者処遇法が施行され、刑務所内で、受刑者に社会復帰に必要な教育を行うことや、一般の医療機関と同程度の医療を提供することが定められ、障害や病気を抱えた受刑者の処遇改善に向けた取り組みが始まりました。PFI方式の刑務所が全国4か所にできて、そのうち3か所では、知的障害や精神障害がある訓練生(受刑者)が、コミュニケーションなどの社会復帰に必要な訓練を受ける特化ユニットが設けられています」

 ――司法・矯正行政の場で福祉の専門職を活用する動きもありますね。

 「各刑務所へのソーシャルワーカーの配置が徹底されているほか、検察庁でも社会福祉士が採用され、容疑者が福祉サービスを受けられるようにした上で、起訴猶予にしたり、裁判で執行猶予付きの判決を求めたりするよう、検察官に助言するといった活動を行うようになりました。また、09年からは、出所後に行き場がない人を支援団体などにつなぐ地域生活定着支援センターが、各都道府県に開設されました。刑務所の中だけでなく、刑務所の手前の『入り口支援』と出所後の『出口支援』の両面から、福祉の視点で再犯防止を目指す動きが始まっています。罪に問われた障害者や高齢者の支援と権利擁護の取り組みは、まだまだ道半ばですが、それでも私が刑務所にいた01~02年頃と比べれば隔世の感があります」 

 <PFI> 「プライベート・ファイナンス・イニシアチブ」の略。公共施設の建設、運営に民間の資金と経営手法を活用し、無駄の削減やサービス向上を図る。刑務所では、「 美祢(みね) 」(山口県)、「播磨」(兵庫県)、「喜連川」(栃木県)、「島根あさひ」(島根県)の4施設があり、主に罪の軽い初犯の受刑者を収容している。

 <地域生活定着支援センター> 刑務所を出ても引き受け先のない障害者や高齢者が生活に困窮して再犯に走るのを防ぐため、個別の支援計画を作り、住居のあっせんや福祉サービスの手配などを行う。国が都道府県に呼びかけ、全額補助を行って2009年から設置が進められた。都道府県から委託を受けたNPO法人や社会福祉法人などの福祉団体が運営する。

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