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コラム

『刑務所しか居場所がない人たち』 山本譲司著…生きるため、罪を犯す障害者の問題を訴え(上)

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犯罪は激減したけれど…

 ――山本さんの出所当時は、外国人や高齢者の犯罪が急増し、刑務所の定員超過が問題になっていました。対策として、民間資金を活用するPFI方式の刑務所を新設する計画が始まったのも、その頃です。

 「警察が認知した犯罪の件数は、私が出所した02年がピークで、年間約285万件に上っていました。それが17年には約91万件と、3分の1に減っています。景気の回復など、様々な理由で治安が改善してきているのです。犯罪の総数が激減する中で知的障害がある人の犯罪はあまり減っておらず、1人の受刑者が平均3.8回の服役を経験しています。健常者を含む全体の平均が3.1回なのと比べると、再犯が多いことが分かります。高齢者の犯罪は逆に増えていて、検挙者数は20年前の約4倍です。多くは、元々、障害を持っていた人が、生活に困って犯罪を重ねながら年を取ったケースです。刑務所の福祉施設化は、むしろ進行しているともいえます」

調書の犯人像と現実にギャップ

 ――知的障害がある人や高齢者の犯罪は、件数は多いが、大半が万引きや無銭飲食などの軽微なものだと、新著には書かれています。

 「万引きは、少額でも何度も繰り返せば常習累犯窃盗罪になるし、無銭飲食は詐欺罪です。罪名からは重大な犯罪を連想しますが、実際には、おなかがすいてスーパーのお総菜をちょっとかじってしまったとか、聞けば拍子抜けしてしまうようなことも。あとは、ヤクザに利用されて、不法滞在の外国人と偽装結婚させられたり、振り込め詐欺でだまし取ったお金をATM(現金自動預け払い機)で引き出す『出し子』をやらされたり。自分の行動が罪に当たるという意識さえない場合も少なくないんです。ところが、検察が作成した供述調書には、計画性を持って犯罪を実行したように理路整然と書かれていて、そこからイメージされる犯人像と現実との間に大きなギャップを感じます」

 ――その一方で、はっきりとした罪の意識もなく行ったことが、重大な結果を招く場合もあります。06年のJR下関駅放火事件では、当時74歳の知的障害がある男性が火を放ち、歴史的な木造駅舎が全焼しました。

 「この男性は、幼い頃から父親の激しい暴力を受けていました。彼の脇腹には、父親に燃えさかる薪を押しつけられてできたやけどの跡が残っています。12歳の時に放火未遂で少年教護院(現在の児童自立支援施設)に入り、『毎日ご飯が食べられて、暴力を振るう人もいない。まるで天国だと思った』といいます。その後、安心できる場所を求めて放火と放火未遂を繰り返した末に、下関の事件を起こしてしまったのです。罪を重ねる障害者の多くが、暴力や虐待、貧困に苦しんだ被害者でもあります。それだけ環境に恵まれなければ、健常者だって犯罪に走ってしまってもおかしくありません。障害者だから罪を犯しやすいというわけではないんです」

出身地では「戻ってこないで」

 ――日本には、障害者のための福祉サービスや生活保護などの社会保障制度があります。それらが十分に機能していれば、避けられた悲劇だったかもしれないと考えると、やるせない思いがします。

 「障害があっても、障害者手帳を持っていないと、福祉サービスを受けられなかったり、利用しづらかったりします。ところが知的障害者が所持する療育手帳は、自治体によって交付の基準が異なるため、地域によっては障害の程度が軽いともらえない場合もあるのです。申請を手伝ってくれる人が周りにいなかったなどの理由で、手帳を持っていない人もたくさんいます。また、障害者への偏見が残る現状では、手帳を取得できたとしても、そのために差別されたり、いじめられたりすることもあります。私は障害者福祉政策について、国会議員だったときには、これまでの制度にもとづき、予算を増やしていけばいいと思っていました。ところが自分が塀の中に入って、それぞれの事情で制度の網からこぼれ落ちた人に出会い、考え方を改めさせられたわけです。制度を生きたものにするには、一人ひとりに寄り添うような支援が必要なのだと分かりました。自分が現実を知らないまま、空論を振りかざしていたことを思い知らされました」

 ――制度だけでは不十分で、人の支えが必要なんですね。

 「知的障害がある人などは、役所での手続きにもサポートがいりますよね。生きづらさを抱えた人たちと社会との間をつないでくれる人が必要なんです。福祉の世界には善意あふれる人が多く、障害者のために骨身を惜しまず働いてくれるのですが、社会のルールから外れてしまうような障害者に対しては別です。特に刑務所から出た障害者は、支援の対象になりにくい現実があるのです。出所した人を福祉につなぐために地域生活定着支援センターができましたが、元受刑者を受け入れてくれる福祉関係者をどう確保するかが課題になっています。私の経験でも、出所間近の受刑者が出身地に帰りたいというので、その市の障害者福祉担当者に支援をお願いしたら、『戻ってもらっては困る。もっと刑務所に入れておいてもらえませんか』と言われたことがあります」

 ――事情があって犯罪に走り、服役して罪を償った後でも、社会に受け入れてもらうのは難しいのですね。

 「先ほど述べた通り、犯罪は激減しているのですが、ひとたび大きな事件が起きるとメディアがセンセーショナルに報じることもあって、人々が逆に治安が悪くなっているように感じる『体感治安の悪化』が起きています。その結果、罪を犯した人や不審者に対する目が厳しくなっているのです。犯罪被害者の救済が十分とはいえないことも、処罰を重くするべきだという考えにつながっているように思います」

 やまもと・じょうじ
 1962年生まれ。96年の衆院選に民主党から出馬し、初当選。政策秘書給与流用事件で詐欺などの罪に問われ、2001年に東京地裁で実刑判決を受けて服役した。出所後に獄中体験をつづった『獄窓記』(ポプラ社)が、新潮ドキュメント賞を受賞。『続 獄窓記』(同)、『累犯障害者』(新潮社)などで罪に問われた障害者の問題を提起している。近著に小説『エンディングノート』(光文社)。


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