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高齢者の住まい探し(上)年齢理由 部屋借りられず
孤独死、家賃滞納恐れる大家

家探しから約2年。女性はようやく新居に引っ越すことができた(都内で)
老朽化した賃貸住宅の建て替えや、経済的な事情で転居を迫られた高齢者が困難に直面している。新たに部屋を借りようとしても、孤独死や家賃滞納を恐れる不動産会社や大家に入居を拒まれることが多いからだ。課題や解決に向けた試みを追った。
「年寄りというだけで、もう全然、物件を紹介してもらえませんでした。長生きなんてするもんじゃないです……」。東京都葛飾区で独り暮らしをする女性(89)は、6月下旬に引っ越したばかりの賃貸アパートで、2年近くに及んだ転居先探しを振り返った。
転居の理由は立ち退きだ。「損傷が激しいため、取り壊したい。賃貸契約を解除していただきたい」。2016年10月、女性が住んでいたアパートに帰宅すると、大家からの退去通知が玄関の郵便受けに投げ込まれていた。
築50年近い木造2階建てで、風呂も付いていなかったが、1DKで家賃は月4万5000円。JR新小岩駅に徒歩約5分と近いのも便利だった。「ここで最期まで暮らすつもりでした……」。弁護士とも相談したが、大家の方針は変わらなかった。
千葉県で育ち、助産所や小料理屋などで70歳まで働きながら、独身を続けてきた女性が受け取る年金は月7万円弱。生活費を穴埋めするため、細々と取り崩してきた貯金が底をついた2年前からは生活保護に頼る。部屋探しを始めたものの、住居費にかけられるお金は限られていた。
20年近く住み慣れた地域を離れたくないとも切実に願っていた。女性の楽しみは、近所の銭湯で顔を合わす友人たちとのおしゃべり。「引っ越し先で知り合いを作るのは、90歳近い私にはつらい。どんなぼろアパートでも近所がいい」
「駅に近く、今の部屋と同じくらいの家賃」という女性の希望に当てはまる物件は、50件ほど見つかり、不動産会社に問い合わせた。ところが、実際に会社を訪ねると、「年齢が年齢なので……」と内見させてもらえなかった。契約直前までこぎ着けた物件もあったが、結局は断られた。「大家の気が変わった」と言葉を濁す担当者。女性の転居を手伝う知人(70)は、「孤独死を恐れたんだと思う」と話す。
公営住宅への入居も考えた。ただ、約400戸の区営住宅はほぼ満室。そもそも入居条件は2人以上の世帯で、独り暮らしは対象外だった。「建て替えなどで家を失う人への支援は大切です」。区の担当者はそう言うが、人口の減少が見込まれる中、区営住宅の新設計画はないという。「地元の不動産会社と協力し、高齢者の入居を拒まない物件を増やしていきたい」とも話すが、区に協力しているのは、まだ1店舗だけだ。
ようやく入居できた新居は築42年。部屋が広くなり、浴槽も付いているが、駅まで徒歩約20分と遠くなった。「今度こそ、ここで最期まで暮らしたい。でも、また転居を迫られたら……」。真新しい畳の香りがする部屋で、女性は少し不安げな表情を見せる。
入居断らない賃貸 支援
公益財団法人「日本賃貸住宅管理協会」の調査(2017年度)では、単身高齢者や高齢者のみ世帯への賃貸に拒否感のある大家は約6割に上る。NPO法人「日本地主家主協会」によると、孤独死に伴う室内の清掃や家財処分は、100万円ほどかかることもある。保証人らと連絡が取れない場合、費用は大家が自腹で負担することも少なくない。手塚康弘理事長は、「葬儀など、死後の手続きまで大家がせざるを得ないこともある」と打ち明ける。
総務省の調査(13年)によると、木造の民間賃貸住宅は約438万戸。うち、約116万戸は1981年以前の旧耐震基準で建築された古い物件で、今後、建て替えなどが必要になる可能性がある。
国土交通省は2017年10月に施行された住宅セーフティネット法に基づき、高齢者らの入居を断らない賃貸住宅を増やす制度を始めた。
制度では、低所得者、お年寄り、障害者、子育て世帯などの「住宅確保要配慮者」を積極的に受け入れる賃貸住宅を、大家が自治体に届け出る。行政からの補助を受け、手すりを付けるなどのバリアフリー改修を行ったり、家賃を低減したりすることもできる。
ただ、全国の登録戸数は約1000戸で、目標の17万5000戸(20年度末)に遠く及ばない。
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