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新時代の「セルフメディケーション」

健康・ダイエット・エクササイズ

高齢者は「体重維持」をセルフケア…新時代のセルフメディケーション

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 「自分で健康を管理して、必要なら市販の薬を使う」という「セルフメディケーション」。昨年度分の確定申告から市販の薬代を控除できる制度が設けられた。高齢化の進展に伴い、薬との付き合いだけではなく、食事や運動など日々の「セルフケア」が、病気や介護の予防や治療に重要なことが改めて注目されている。セルフメディケーションという言葉も、広く健康管理を指すようになってきた。そんな「新時代のセルフメディケーション」を考える。

栄養不良の可能性…高齢者宅を栄養士が訪問

 日本人の健康にとって重要な二つの栄養問題がある。ひとつは若者や働き盛りの栄養過多が招くメタボリックシンドローム。失明、腎機能の障害、脳卒中や心筋梗塞という重大な病気を引き起こす糖尿病の引き金になる。

 もうひとつは高齢者の栄養不良だ。肺炎や転倒などを経て介護が必要な状態になり、寿命を縮める危険が高い。メタボの場合は自分で気づいていても食習慣の改善に苦労するが、高齢者の栄養不良は本人が自覚していないことも多い。これらの栄養問題に対して、栄養士の訪問相談などで成果を上げている自治体がある。

「75歳以上」「1年で体重2キロ減少」…健康に「黄」信号

西山さん(左)の自宅で訪問栄養相談をする田中教授(右)と湯野さん(中央)

 神奈川県大和市は県の中央にある人口23万人のベッドタウン。今年4月には「70歳代を高齢者と言わない都市 やまと」宣言をして、人生100年時代を見据えた意識作りに乗り出している。

 同市では75歳以上の高齢者を対象に毎年健診を実施しており、そのデータを基に「肥満指数のBMI『20以下』の痩せ型で、1年前の健診から2キロ以上やせた人」全員に対して、訪問栄養相談の案内を郵送する。

 BMIは、「体重㎏÷(身長㍍×身長㍍)」で計算する指数で、「18.5未満」は低体重とされる。高齢者のスクリーニングでは、危険域を「20以下」まで広くとった。

 今年4月に相談の対象になったのは268人。栄養士が希望者の自宅を訪問して、3か月、6か月の時点でフォローする。健診などのデータを保健指導に活用することを「データヘルス」と言い、国は自治体や健康保険組合での実施を推進している。大和市の取り組みもそのひとつだ。

 同市健康づくり推進課栄養アドバイザーで神奈川県立保健福祉大栄養学科の田中和美教授と、同課管理栄養士湯野真理子さんは、事前にデータをチェックして希望者の自宅を訪問する。西山悦子さん(80)の体重は38.5キロ、身長141センチなので、BMIは「19.4」。1年で体重が2.5キロ減った。75歳の時と比べると7.5キロ減っているのも気がかりな点だ。

 西山さんの自宅マンションを訪れると、商社マンの夫と共に20年以上をアメリカやフランスなど海外で生活したとあって、部屋には各地の皿など思い出の品が飾ってある。趣味はフランスで習った皿の絵付けだという。きれいに片付いた部屋の様子からも、きちんとした暮らしぶりがうかがわれる。

 田中教授ら2人が、西山さん夫妻の食生活の様子を質問する。

 「朝はトースト1枚とコーヒー、昼はパンと前夜の残りもの。夜はご飯とおかずを食べています」。健康意識は高く、1日2000~3000歩は歩くようにしており、雨の日にはマンションの階段を歩き回るほどだ。コレステロールの薬を長く飲んでいるが、それ以外は医師にはかかっていない。

 西山さんの生活にどのような問題があるのだろうか?

「パンにはジャム、チョコを食べてみては」

 田中教授は「今はお困りではないと思いますが、体重の減り方が少し多いのが気になります。ちょっと食が細いかなという感じがします」と語りかけた。

 西山さんは「コレステロールの薬を飲んでいるし、体重が減ってくるのはいいことだと思っていましたよ」と言う。

 田中教授は「体重が減るのがいいことなのは、50代ぐらいのメタボの方の話です。後期高齢者になったら、体重を維持していくのが大切だと頭を切り替えた方がいいですね。体重が減るとまず筋肉が落ちます。やせるとクッションがなくなって、ちょっところんだ時にも骨が折れたりひびが入ったりしやすくなります。おせっかいですが、体重が1キロちょっと増えて40キロぐらいになるといいですね」と続けた。

 訪問の合間に「自分ひとりでは甘いものは食べないんですけど」と言いながら、西山さんは田中教授たちにチョコレートを出してもてなした。田中教授は「西山さん、チョコをご自身もお食べになるといいですよ」と声を掛けた。さらに「パンにジャムをつけるのはお好きですか」「牛乳はお飲みになりますか」「バナナやヨーグルトなど日課にできるものがあるといいですね」などと、カロリーが簡単に増やせて、西山さんが受け入れやすそうな方法を一緒に探した。

 そして、田中教授が「今は1日1000~1200キロカロリーなので、毎日100から200キロカロリー増えると、1か月で0.5キロから1キロ体重が増えます。いつまでもお皿の絵付けを楽しめるように、もう少しお食べになるといいですよ」とアドバイスすると、西山さんは「そうね。もうちょっと食べなきゃね」と受け止めていた。

 それから2か月余り。西山さんは「バナナやヨーグルト、それにチョコレートを食べるようにしていますよ。相変わらず元気で歩いていますが、体重40キロにはなかなかなりませんね」と話していた。減っていた体重を増やすのは思いのほか難しい。3か月たったら、栄養士から様子を尋ねる連絡が入るはずだ。

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