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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

医療・健康・介護のコラム

ボツリヌス治療も効かない…苦しい眼瞼けいれん、40回目の「目の相談」

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 私たちが運営しているNPO法人「目と心の健康相談室」(理事長:荒川和子)では、目の病気や症状で不安や疑問を抱える会員の相談にのっています。会員なら何度でも相談を受けられます。

 会員の中に、相談がすでに40回目となった50歳代の女性がいます。20年ほど前から、「目の奥や表面に痛みがある」「まぶたが重い」「しょぼしょぼして目を開けられない」といった症状で悩んでいる「 眼瞼(がんけん) けいれん」の患者です。

睡眠導入薬などへの依存…眼瞼けいれんが悪化

ボツリヌス治療も効かない…苦しい眼瞼けいれん、40回目の「目の相談」

 この女性は強迫神経症や不眠のため、20年以上前からベンゾジアゼピン系などの睡眠導入薬や、向精神薬を飲んでいました。これが、眼瞼けいれんの発症や悪化を招いたと考えられます。

 彼女は自分で専門書やネットで情報を集めて、つらい症状が「眼瞼けいれん」であり、薬物が関与しているとわかった時は、発症から10年以上経過していました。

 この間、重い薬物依存になってしまい、症状の軽減に有効な減薬をしたり、別の薬に変更することは、とても困難でした。

 「眼瞼けいれん」の治療として、最も推奨されるボツリヌス治療も何回か受けています。目をつぶる筋力を一時的に弱め、まぶたを開きやすくする治療ですが、期待したような効果はなかったそうです。

 彼女は「日々の苦しみが少しでもとれれば」と、眼科、神経内科、心療内科など、複数の医師を受診しましたが、医師の見解はその都度異なっていました。彼女の気持ちはさらに混乱しました。

日を追うごとに目が重く…「兎眼性角膜炎」と診断

 そして、彼女は1か月ほど前に、またボツリヌス治療を神経内科で受けました。その後、目が重い感じや、しょぼしょぼ感が、日を追うごとに強くなっていったそうです。

 あまりにつらかったので、ある眼科を訪れたところ、「 兎眼(とがん) 性角膜炎」と診断されました。兎眼では、 (まぶた) を閉じる力が弱まることで、角膜(黒目)が乾燥して炎症が起き、白目が赤く充血します。外見がウサギの目に似ているとから、この名称がついています。

 彼女はこの時、点眼や眼 軟膏(なんこう) の処方を受け、さらに上下の瞼にテープを貼って閉じて寝るように指導されました。兎眼は、就寝中に薄目が開いて乾燥しやすくなるので、眼軟膏は寝る前に 点入(てんにゅう) します(結膜や角膜の表面に少量の軟膏を入れると体温で自然に溶けるようになっています。この薬のつけ方を眼科では点入と呼びます)。

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任。15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人 心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」、「蓮花谷話譚」(以上青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半は講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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