心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
「眼鏡がかけられないなんてありえない」…医師の思考停止から生まれる「心ない回答」
「読み書きなどで眼鏡をかけると、3分ほどでぼやけ始めます。そして、急激に頭の奥に痛みを感じ、目の奥にも引きつるような痛みがあって、とても眼鏡をかけていられません」
そう訴えるのは、60代の男性Jさんです。元々ベテランのタクシー運転手でしたが、数年前の追突事故で、むちうちになりました。
Jさんは眼鏡をかけないと、視力が0.2程度に落ちてしまいます。追突事故をきっかけに、眼鏡をかけるとつらい症状が出てしまうようになったため、運転も、移動も、読み書きなどの日常生活もうまくいきません。
何軒もの眼科を受診しましたが、目そのものは正常。MRIなどの検査も受けましたが、すべて正常とのことでした。
自覚症状の訴えを認めない…「診断書は書かないからな」
「なぜそうなるのか」「治療の方法はないのか」
Jさんは答えを求めて、ある眼科に通院していたところ、そこの医師の機嫌がだんだんと悪くなっていったそうです。
「言っていることがわからないな」と言うのならまだしも、「そもそも、ありえないんだよ、眼鏡がかけられないなんて」と言い放ったそうです。
つらい自覚症状を訴える患者を前にして「ありえない」と強弁するなんて、なんなのでしょう。診察で目に異常が見られないから、あるいは自分の知識の中にはないからといって、患者がまるで 嘘 をついているかのように決めつけて、自覚症状を認めようとしない権利は、医師にはないはずです。
患者がなぜそう訴えているのかを考える能力を、その医師は持っていないのでしょうか。
少なくとも医師国家試験に合格するまでは、ちゃんとものを考えていたはずです。能力がないというより、思考を停止しているのでしょう。患者に寄り添った医療をしてきたのではなく、教科書や研究論文、あるいは自身の臨床経験だけを 拠 り 所 に診療してきたから、そこにないものは「ありえない」になってしまったのでしょうか。
その医師は、あげくの果てに、Jさんから頼まれてもいないのに「(追突事故の)賠償金のためだろう、診断書は書かないからな」と言って突き放したそうです。
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