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精神科医・内田直樹の往診カルテ

コラム

衰えがつらい…認知症の人のためにできること

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投薬治療には限界が

 確かに、Aさんは笑うようになりました。しかし、私が質問を始めると、「ばかになってしまって…」と表情が曇ります。

 このままではできないことにばかりに目が向いて、元気がなくなってしまう――。Aさんの言う「能力低下」に耳を傾けながら、囲碁に代わり楽しめるものがないかを、一緒に考えるようにしました。

 ある時、Aさんの妻が、「お父さん、猫を飼ったら?」と言い出しました。近所の家から子猫を1匹引き取ってもらえないかと相談されたのです。動物好きなのに「今の自分では世話ができない」というAさんに、私はここぞとばかりに「使える能力はたくさん残っています。真面目でいらっしゃるし、世話はできますよ」と強調しました。

できることをして、意欲を取り戻す

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画像はイメージです

 猫を飼い始めたAさんに変化が訪れました。訪問するたびに必ず出ていた「能力低下」の話は鳴りを潜め、うれしそうに猫について話すようになりました。猫は、Aさんにしかなついておらず、私がその姿を見られたのは一瞬だけです。

 それでも「認知症が進んでいないだろうか」と不安に思うAさんのためにHDS-Rをまた行いましたが、結果は17点で、ほとんど変化していませんでした。それを知ったAさんは、安堵(あんど)の表情を見せました。

 認知症になると自分が病気であることがわからなくなり、医療機関を受診しなくなることは珍しくありません。一方で、Aさんのように自覚できるがゆえに能力低下を悲観してしまう人もいます。

 医療を行う側は、往々にして患者の具合の悪い部分を見つけて、そこを何とか改善しようとします。専門的には「医学モデル」と言います。しかし、この方法だけでは行きづまることもあります。Aさんの例のように、残っている能力を引き出し、本人がやりたいことを実現できるように環境を調整する――そんな「社会モデル」を考えることも重要なのです。(内田直樹 精神科医)

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内田直樹(うちだ・なおき)

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡県福岡市東区)院長、精神科医、医学博士。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院を経て、10年より福岡大医学部精神医学教室講師。福岡大病院で医局長、外来医長を務めた後、15年より現職。日本精神神経学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医、NPO法人日本若手精神科医の会元理事長。在宅医療の普及を目指して「在宅医療ナビ」のサイト運営も行っている。編著に「認知症の人に寄り添う在宅医療」(クリエイツかもがわ)。

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