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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

小児がんとの闘い(3) 抗がん剤の毒性で一度止まった心臓 治療の継続はあまりにも残酷だと…

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腫瘍が再発 治療を再開すべきか?

 さらに悪いことが起きました。超音波検査で腹部に腫瘍が再発していることが分かったのです。がんを治すためには、もう一度、腫瘍の摘出手術と抗がん剤治療をおこなう必要があります。

 千里ちゃんの今後の治療について、私たちの見方は分かれました。がんの治療で一度は心臓が止まったのですから、もう限界にきている。治療は諦めるべきだという声が上がる一方で、もう一度トライしたいという意見も出ました。

 私は正直に言って、今後も抗がん剤を継続するのは千里ちゃんにとって残酷なことだと思いました。そこで両親と面談をしました。

両親は「どんなことがあっても助けて」

 2人の気持ちは一致していました。どんなことがあっても千里ちゃんを助けてほしい。もう一度、手術と抗がん剤治療をやってほしいというものでした。そして、こうも言います。「かつて、自分たちの友人が海で溺れ、一度は植物状態になったにもかかわらず、その後、完全に回復したことがあった。千里も元の状態に戻るかもしれない」と。

 私はそれでは困ると思いました。その友人が具体的にどんな状態だったか私には知りようがありませんが、千里ちゃんが元の状態に戻ることはあり得ません。それはくり返しおこなったX線CTや脳波検査から明らかです。

 私は、寝たきりの状態で生きていく千里ちゃんを両親が受容できないならば、治療を再開することは難しいと考えました。話し合いは平行線をたどり、お互いに納得するものにはなりませんでした。

 しかし、理由はどうあれ、患者側が治療を希望しているのに医療サイドがそれを拒否するのは正しくありません。私たちは千里ちゃんに2度目の手術をおこない、抗がん剤治療も再開しました。

奇跡は起きず わが子の姿を受け入れた両親

 その結果、千里ちゃんの小児がんは完治しました。そして、奇跡はやはり起きませんでした。千里ちゃんは依然として寝たきりのままです。しかし、両親がその現実に対して、がっかりした素振(そぶ)りを見せることはありませんでした。千里ちゃんのその姿を受け入れ、千里ちゃんを車いすに乗せて、病院に通ってくるようになりました。

 再開した抗がん剤治療でもう一度心臓が止まるようなことがあったら、私たちは悔やんでも悔やみきれなかったでしょう。けれども、千里ちゃんと両親はその過酷な治療を乗り越えました。千里ちゃんに「生きたい」という気持ちが強くあったからではないでしょうか。(松永正訓 小児外科医)

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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1件 のコメント

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子の余命宣告について

18ママ

18トリソミーの子の母です。 現在10カ月になった我が子ですがことあるごとに医師との面談で病状の説明と共にいざとなったら延命治療をどうするかと問...

18トリソミーの子の母です。
現在10カ月になった我が子ですがことあるごとに医師との面談で病状の説明と共にいざとなったら延命治療をどうするかと問われます。
それはお医者さんの立場としては当然のお役目なのだとは理解していますが、患者の家族としては、この病なのだから諦めてくれと暗に言われているようで本当に辛いです。
希望を持たせるような言葉はありません。
そして今は安定しているから退院しましょうと切り出されますが不安と恐怖で寝れません。もう少し何とかならないものでしょうか。在宅介護を続けることにも支障が出てきています。これは私自身が乗り越えるしかないのでしょうか。他の方々はどう乗り越えていらっしゃるのか知りたいです。

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