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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

コラム

「オレは認知症なのか?」偶然知った病名に衝撃

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漫画・日野あかね

読んでも忘れる…不安で新聞が手放せない

 元気だったころから父さんは「これも仕事だ!」と、情報収集のために毎朝、新聞をじっくり読む習慣がありました。ですが、脳血管性認知症との診断を受けた後の生活で、その「新聞をじっくり読む」行為があまりに過ぎていた時期があったのです。

 朝刊は、届いてから夕刊が来るまで、夕刊は、来てから寝るまで、時間があれば読んでいる……というより、ペラペラとめくり続けているのです。

 自分の身支度などもそっちのけで新聞を読み続けています。その行為にイラッとした私は、「なんでそんなに新聞ばかり読んでいるの?」と、父さんに聞いてみました。すると「読んだはずのところを忘れてしまう。それが不安だから読み続けているんだ」という答えが返ってきました。

初めて聞いた父さんの心の声

 私は、父さんには自分が「認知症」だという認識はないと思っていたので、この返答にすごく驚かされました。でも父さんは父さんなりに、自分でも違和感を抱き、それを打ち消すために新聞を読み続けていたのです。こちらがイラッとする謎の行動にもちゃんと意味がありました。そして、自分の気持ちをあまり言うことのない父さんの、認知症になってからの心の声を初めて聞いたように思ったのです。

重い空気を笑い飛ばした母さん

 その後、新しい介護サービスを受けることになったときに、ケアマネジャーや関係するスタッフが我が家に来て打ち合わせをしていました。そこには母さん、私、父さんも同席していました。

 机の上に広がっている書類の一枚を父さんが、ふと手に取りました。なんと、それは父さんのこれまでの病歴などが書かれている資料。それを読んだ父さんが「オレは認知症なのか?」と、衝撃的な質問をみんなに投げかけてきました。

 なんと答えたらいいかわからず、場の雰囲気は一瞬にして凍り付きました。が、一人だけ笑っている人がいます。母さんです。そして「あら、知らなかったの!」とすこぶる明るく答えました。みんなが「えー、それ言っちゃう?」と心の中で叫んでいると、父さんは「そうなのか……」と少し落ち込んでいました。

 母さんは、あの重い空気と父さんの気持ちを思い、心の中では苦悩しつつも、努めて明るく笑い飛ばすように言ったのでしょう。さらに父さんは、認知症ゆえ、数分後にはこのやりとり自体を忘れたようで、このときばかりは「認知症で良かった」と不謹慎ながらもホッとしたのです。

思いは複雑…尋ねてみたい今の気持ち

 こんなふうに認知症になった本人から、それを不安に思う気持ちを聞いたり、自分の病気について尋ねられたりすることも、「認知症介護あるある」なのかもしれません。そのとき、家族としてどうしたらいいのでしょう。全てのケースでベストな回答かはわかりませんが、母さんのように明るく笑い飛ばすのが、岡崎家のベストなのかもしれません。

 現在の父さんは、新聞を読みまくっていたころより認知症の症状が進み、新聞よりも、おいしそうな食べ物がたくさん載っているスーパーの折り込みチラシを眺めていることが多くなりました。もう新聞を読まなくなったということは、あのころのような不安な気持ちは、病状の進行とともに消えているのでしょうか。

 そう考えると、なんだか複雑な気持ちになります。母さんを見習って、今の父さんの心の声を明るくサラッと聞いてみようかな……なんて思うのも、私の「認知症介護あるある」なのです。(岡崎杏里 ライター)

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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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