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ヤングケアラー(下)子どものSOS どう対応

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孤立しないように、悩む学校現場

ヤングケアラー(下)子どものSOS どう対応

神奈川県藤沢市で開催されたヤングケアラーについての勉強会。市の職員らが参加した(2017年6月、同市提供)

 家族の介護や世話をしている子どもたち「ヤングケアラー」。子どもたちに近い学校現場では、彼らの悩みをキャッチし、支援することに悩んでいる。

 関西の私立高校で養護教諭を務める女性(25)は最近、保健室に通って来る女子生徒が気がかりだ。会話の端々から、病気の親の世話をしていることがうかがえる。

 でも、「大丈夫?」と聞いても、「(親の世話は)当たり前のことだから……」と答えるばかり。詳しい事情を聞けないでいる。

 家庭のことを打ち明けるまで3年かかった生徒もいたという。

 養護教諭自身、ヤングケアラーだった。母親が精神的に不安定で、小学生の頃から聞き役を務め、家事も引き受けていた。「私も自分がしてきたことを『当たり前』と思っていた。でも、心のどこかで居場所を探していた」と振り返る。

 養護教諭は「本人が抱え込んだままだと、孤立してしまう。『つらいと言っていいんだよ』と伝え、信頼できる大人の一人になりたい」と話す。

  踏み込む限度

 しかし、子どもたちから家庭の事情を聞けても、どこまで踏み込んでいいのか教員も悩んでいる。

 神奈川県の小学校の女性教員(48)は忘れられない女児がいる。4年前、小学校6年生だった。授業中、いつも疲れた顔で眠そうにしているので理由を聞くと、毎日寝るのが夜12時以降だと教えてくれた。女児が年下のきょうだいの保育園のお迎えや家事、父親の夜勤の弁当の用意までしていた。

 担任を通して両親に働きかけたが、共働きで日夜忙しく、状況は、一向に変わらなかった。

 女性教員は、「親からみれば、『お手伝い』の感覚でやらせているかもしれない。各家庭の事情を考えると、解決策を見いだすことが難しい」と話す。

 その上で、「宿題をしてこなかったり、授業中に寝ていたりする子がいても、頭ごなしに叱るのではなく、よく話を聞いてSOSのサインを見逃さないようにしたい」と話す。

教員が気づいたきっかけ…「本人の話」「欠席」「保護者の話」

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 教員の半分が、これまでに家族のケアをしている児童や生徒がいたと回答――。

 「日本ケアラー連盟」(東京)が2016年、神奈川県藤沢市の小中学校の教員など約1100人から聞いた調査では、こんな実情が浮き彫りになった。

 同連盟が15年、新潟県南魚沼市の小中学校の教員約270人から聞いた調査でも、4人に1人が同様の回答をした。

 藤沢市の調査で、子どもがケアをしていることに気づいたきっかけは、「子ども本人の話」が最も多く、次いで、「学校を休む」「保護者の話」の順で多かった。児童や生徒の欠席や遅刻をきっかけに実態が分かることも多いという。

 同調査では、気づいた教員が、子どもの話を聞いたり、保護者と面談したりしていたこともわかった。一方、家庭への介入が難しいなどの理由で対応できなかったという回答もあった。

英国の先進的取り組み 負担を評価し必要な支援へ…渋谷智子 成蹊大准教授

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 ヤングケアラーにはどのような支援が必要なのか。先進的な英国の取り組みに詳しい専門家にインタビューした。

 ヤングケアラーは、同世代の友人と同じ悩みを共有するのが難しいため、孤立しやすい。本人にとってまず必要なのが、話し相手のいる居場所だ。その上で、本人が家庭で担っている負担を減らすことが大切になる。

 英国では1980年代末から、ヤングケアラーの実態調査や支援が行われてきた。介護が必要な人をケアする家族の負担や子どもの教育を受ける権利を重くみている。徐々に法整備も進み、2014年には、介護に関する法律を統合した「ケア法」ができた。

 英国各地では、支援団体などによる取り組みが行われている。例えば、ヤングケアラーが息抜きできるイベントが頻繁に開かれ、悩みを共有できる場所がある。

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 学校では、寸劇などを通して、ヤングケアラーが抱える不安や心境を、ほかの先生や生徒が分かるように説明している。一方、本人がヤングケアラーであることを示すIDカードも配られている。

 彼らが担うケアについて、支援団体が評価し、必要なサービスにつなげることもある。例えば、病気の母に代わって、きょうだいの送り迎えをしているために学校に遅刻する生徒がいれば、送迎をボランティアに担ってもらう。

 日本では、ヤングケアラーへの関心が高まったのはここ数年のこと。どのくらいの年代の子どもや若者が、どんなケアをしていて、どんな負担感を抱いているか、国全体の実態調査がないのが実情だ。

 子どもが家族の世話をする経験はプラスの面もあるが、限度を超えると、子どもの学業や健康、成長する権利を侵害するおそれもある。

 学校や医療・介護関係者が、患者や要介護者だけをみるのではなく、ケアを担う子どもたちの悩みに気づき、必要な支援を受けられる環境づくりが求められる。

 実態調査を通して社会の関心を高め、英国同様、居場所作りを進めて、本人の負担を減らすことが必要だ。

  ◇しぶや・ともこ  成蹊大学准教授(社会学)。介護やケアを担う子どもや若者の問題に詳しい。著書に「ヤングケアラー―介護を担う子ども・若者の現実」(中央公論新社)がある。

 この連載は、社会保障部・粂文野が担当しました。

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