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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

小児がんとの闘い(2) 手術をすれば100%障害が残る しなければ100%命が…

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 俊平君(仮名・12歳)が私たちの病院に入院してきたとき、彼の下腹部は異様に盛り上がっていました。いくら力んでも尿が出ないといいます。緊急でX線CTを撮影したところ、 膀胱(ぼうこう) のすぐ下、つまり前立腺の位置に大人の拳くらいの大きな腫瘍がありました。こういう腫瘍は残念ながら良性ということは、まずあり得ません。ほぼ間違いなく、 (おう)(もん)(きん)肉腫(にくしゅ) と呼ばれる悪性腫瘍です。

抗がん剤の激しい副作用 それでも効かず

 俊平君に全身麻酔をかけて腫瘍の一部を取り出し、病理検査に回しました。診断はやはり横紋筋肉腫でした。前立腺が腫瘍に置き換わってしまったのです。腫瘍は尿道の全周を取り巻いていますし、膀胱と完全に癒着していますので、手術で摘出することは不可能です。したがって治療は抗がん剤を使うことになります。

【名畑文巨のまなざし】
ポジティブエナジーズ(その3) 世界をめぐって撮影したダウン症の子どもたちは、みなポジティブなエネルギーにあふれていました。ミャンマーの1歳の赤ちゃん、とてもかわいい。それに、かなりお 転婆(てんば) です。めまぐるしく変わる表情は、どれも生き生きとしていて、三世代が同居する大家族の皆を笑顔にしていました。ミャンマー・ヤンゴン市にて

 早速、3種類の抗がん剤が投与されました。強い副作用が出て、俊平君は毎日10回以上も 嘔吐(おうと) し、発熱しました。抗がん剤治療を4週ごとにくり返していったのですが、副作用が出るばかりで前立腺の腫瘍は一向に小さくなることがありませんでした。抗がん剤の種類を変えても同じでした。

 このままでは俊平君の命を救うことができません。私たちは考え込んでしまいました。残る手段は手術です。

手術なら膀胱も尿道も一緒に摘出

 前立腺の腫瘍を摘出するには、膀胱も尿道も一緒に摘出することになります。腸の一部を使って人工膀胱にして、そこに腎臓から尿を運んでくる尿管をつなぎます。そして、人工膀胱から体の表面に出口(ストーマ)を作るのです。

 では、この手術をすれば俊平君は100%治るのでしょうか? いえ、そうとは言い切れません。なぜならば、小児がんでは、がん細胞がほんのわずかでも体内に残ると、そこから再発してしまうからです。

 手術をすれば100%間違いなく、体に障害が残ります。しかも、助かる確率は100%ではありません。ですが、手術をしなければ、俊平君の命は100%失われます。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)など。2017年11月、『子どもの病気 常識のウソ』(中公新書ラクレ)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

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