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Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

コラム

深い眠りで健康に?――「短時間睡眠法」のウソ

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 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に科学的見地からビシバシお答えします。今回は「そもそも私たちはナゼ毎日、何時間も眠らなくてはならないのか」という疑問を取り上げます。

書店で人気の快眠本だが…

 日本は他の先進国に比べ、睡眠時間が平均して1時間も短く、特に働く女性の睡眠不足は深刻です。一億総活躍社会などと言われていますが、休養も十分にとれない生活スタイルで、本当に持続可能な(サステナブルな)健康社会が実現できるのか心配です。そのため、前回の コラム では、心身の疲れを翌日に持ち越さないために必要な睡眠時間について紹介しました。

 とはいえ、このようなお話をすると「お説ごもっともだが、なかなか睡眠時間が確保できない」という嘆きと一緒に、「短くてもしっかり休める眠り方はないだろうか」という切実なご質問や、「会議中や電車での居眠りを足すと合計8時間寝てます、わっはっは」などと、いささか開き直ったコメントをよくいただきます。

 特に通勤時間が長い都市部では睡眠時間が短い傾向があります。寝足りない分は電車の中で、という人もおられるでしょう。本屋さんの書籍コーナーにも快眠法に関する本がたくさん置いてありますが、中でも短時間睡眠法は人気のようです。でも残念ながら、健康に悪影響を与えずに必要睡眠時間を意図的に短くしたり、都合の良い時間帯に分割して眠ったりする方法は、現在でも見つかっていません。

体は睡眠中に多くの作業を行っている

 「夢の短時間睡眠法」が見つからない理由は明確です。それは睡眠中にやらなければならない「作業」がたくさんあるからです。

 睡眠とは何もせずにじっとしている時間ではありません。その間に、脳やそれ以外の細胞、組織、臓器でさまざまな作業が行われているのです。短時間睡眠で手抜き工事をすればどうなるでしょうか? そうです、欠陥住宅ができます。新築時には分からなくても、早晩ボロが出てきます。

 睡眠中に行われる作業の目的は、大きく二つに分けられます。

 一つ目の目的は、心身の休養です。仕事上のストレスなどで高まった緊張を和らげてリラックスする(交感神経よりも副交感神経が優位になる)、たまった老廃物を排出する、ダメージを受けた細胞や組織を修復する――などの作業を眠っている間に行い、日中の活動で蓄積した疲労を回復させます。

 最近(といっても数年前ですが)、睡眠医学の分野で話題になったのは、日中に脳内の神経細胞で生じた老廃物が、睡眠中、集中的に脳外に排出される仕組みが解明されたことです。米国・ロチェスター大学の研究成果です。排泄(はいせつ)物の中にはアルツハイマー病の原因になるタンパク質(アミロイドβ)も含まれていて、睡眠時間が短いとそれを脳外へ排出する働きが悪くなることも確認されました。睡眠時間が短いと認知症になりやすいことは疫学研究から分かっていましたが、そのメカニズムがようやく明らかになったのです。

数日の寝不足で弱まる血糖値の抑制力

 二つ目の目的は、翌日に向けた心身の調整です。人は睡眠中に、不要な記憶を消去し、必要な記憶を長期間保てるようにしっかり固定する作業を行っています。そのほかにも、気分を安定させる、血糖調整などの代謝能力や免疫力をアップさせるなど、翌日の活動に向けた準備を整えています。

 例えば、これまでの研究から、たった数日間の睡眠不足でも、食後の血糖値を下げる力(耐糖能)が低下したり、気分が不安定になったりすることが明らかになっています。もちろん、しっかり眠ることで機能は回復します。しかし、長年にわたり、平日に慢性的な睡眠不足に陥り、休日の寝だめで帳尻を合わせるという生活を繰り返していると、糖尿病やうつ病を発症するリスクが高まります。いったん発症した後に慌てて睡眠時間を長くしても、それだけでは病気は治りません。

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三島和夫(みしま・かずお)

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所睡眠・覚醒障害研究部部長

 1963年秋田県生まれ。87年秋田大学卒業。同医学部精神科学講座・助教授などを経て、2003年米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授。2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事。著書に『不眠症治療のパラダイムシフト』(編著、医薬ジャーナル社)、『やってはいけない眠り方』(青春新書プレイブックス)、『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(共著、日経BP社)などがある。

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