文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

認知症介護あるある~岡崎家の場合~

医療・健康・介護のコラム

実は高難度! 認知症の人の入浴

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

漫画・日野あかね

なぜ? 脱いだ服をまた着る

 父さんが自宅のお風呂には入らなくなって、かれこれ10年近い歳月が過ぎようとしています。

 認知症になり始めたころの父さんは、しばらくはそれまで通りに自分一人でお風呂に入っていました。しかし、徐々にその入り方に対して「?」が増えていきました。

 まず最初の「?」は、私や母さんが脱衣所に着替えの下着やパジャマを用意しても、それまで着ていた下着や洋服を脱いで上に載せ、お風呂から上がるとまたそれを着てしまうことです。「お風呂上がりは、きれいな下着とパジャマを着てきてよ!」と、何度お願いしてもダメなのです。

 これは認知症の人によくみられる行動らしく、訪問介護のヘルパーさんや介護の仕事をしている友人に「お父さんがお風呂に入ったら、それまで着ていたものをすぐに下げて、着替えだけを脱衣所に置けばいいんだよ」と教えてもらい、日々のイライラが一つ減りました。

 こんなふうに介護の現場の人たちにとっては「認知症介護あるある」でも、認知症介護初心者の私たちには「目からウロコ」の情報だったのです。

「どうしたらいい?」お風呂場で途方に暮れる父さん

 それからしばらくすると、私たちに促されて服を脱いで、お風呂場には入るけれど、そこでただひたすら「ボーッ」としている状態が続きました。あまりに父さんがお風呂から出てこないので様子を見に行くと、体を洗うどころか、まったく濡れてもいない裸の父さんがお風呂場の真ん中で椅子に座っているだけ。

 「体、洗っていないの?」と声を掛けると、「あぁ、そうだ!」と慌てて体を洗いだします。そのうちに父さんは「お風呂場に入ったあとに、何をどうしたらいいかわからないんだ」と言うようになりました。

 私たちは当たり前のように毎日お風呂に入っていますが、実は「お風呂に入る」という行動は、「服を脱ぐ→シャワーを浴びる(かけ湯をする)→湯船につかる→髪の毛を洗う→体を洗う→バスタオルで体を拭く→服を着る」と、小刻みに次の行動の指示を頭の中で出しているのです(これも介護の現場の方から教えてもらいました)。認知症になると今は当たり前にできていても、お風呂に入ることは難しいことになってしまうのだとか。

「はい、シャンプー」「次は体洗って」脱衣所から“アシスト”

 そこで、父さんがお風呂に入るときは、私か母さんが監督役(?)としてついて行き、「はい、髪の毛を洗う」「その次は体」と脱衣所から指示を出す独特な入浴法を取るようになりました。

 でも、毎日、毎日、脱衣所で私たちが監督役をやるのも、なかなかしんどいものです。さらにバリアフリーの真逆をいく昭和な構造の実家のお風呂場の段差に父さんがつまずくようになりました。家族で一番体の大きい丸裸の父さんを支えて、お風呂のフォローをするのはかなり大変でした。

自宅での工夫も限界…今はデイサービスで快適入浴

 そんな状態を「そろそろ、ご自宅での入浴は無理ですかね……」とケアマネジャーさんが察してくださり、自宅のお風呂に入ることは卒業して、デイサービスで入浴サービスも受けることを提案してくれました。

 父さんは慣れ親しんだ家のお風呂に入れなくなったことを、さぞ嘆くかと思いきや、「デイサービスのお風呂は広くて、気持ちがいいんだよ」と、まんざらでもない様子。父さんが気持ちいいイチバンの選択(私と母さんも気持ちが楽になったし)! こうして、もう父さんは10年近く、デイサービスのお風呂を楽しんでいます。

 こんなふうに「お風呂事情」一つとっても、そのときどきで変化していくのが「認知症介護あるある」なのかもしれません。(岡崎杏里 ライター)

登場人物紹介はこちら

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

column_aruaru-200re

認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

hino-117-fin

日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

認知症介護あるある~岡崎家の場合~の一覧を見る

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事