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[群大手術死]25歳で逝った妹・美早へ 「遺志継ぎ、患者参加の医療を」…遺族会代表・小野里和孝さん実名で誓い

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 群馬大学病院で2014年に発覚した手術死の続発。不十分な体制で無理な手術が繰り返された問題を教訓に病院改革を進める群馬大学病院は、患者と医療者が協力して医療の安全などに取り組む「患者参加型推進委員会」を新たに設け、遺族会代表の2人を委員に迎える。18年6月22日に初会合が開かれる予定だ。それを前に、これまで匿名で活動していた代表の一人、妹を亡くした小野里和孝さん(38)が読売新聞のインタビューに応じ、初めて実名を明かして、今後の抱負や妹・美早さん(当時25歳)への思いを語った。

高梨ゆき子 医療部

生き残った僕が、家族の思いを…

[群大手術死]25歳で逝った妹・美早へ 「遺志継ぎ、患者参加の医療を」…遺族会代表・小野里和孝さん実名で誓い

同僚との飲み会で笑顔を見せる美早さん(亡くなる前年の2007年10月)

――今回、実名を公表することにしたのは、どのようなお考えからですか。

 患者参加型推進委員になり、前向きに取り組むためにも実名で活動したいと思ったのです。妹は08年、自分が看護師として勤めていた群大病院で 膵臓(すいぞう) の手術を受け、亡くなりました。後に行われた調査では、無理な手術だったことがわかりました。当時からおかしいと思っていましたが、病院から十分な説明はなく、僕たち家族は事実を知りませんでした。妹が亡くなってから5年の間に、両親も相次いでがんになり、亡くなりました。家族の中で生き残ったのは僕だけです。だから、家族みんなの思いを背負って、美早の遺志を引き継ぐという気持ちで活動するつもりです。

――妹さんは生前、医療や看護への思いを語っておられましたか。

 「あたたかい看護がしたい」ということは話していましたね。特に、病気になって入院してから、その思いが強くなったようです。患者の気持ちとか、患者の痛みとか、自分が経験したからこそわかったことが多いようで、入院中につけていた日記にも、そういうことが何度も書かれていました。

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幼い頃の美早さん(右)と2歳上の兄・和孝さんは、とても仲の良いきょうだいだった

――闘病中の日記は私も読ませていただきました。「元気になったら、今のこの経験を生かして、もっと患者さんの気持ちに寄り添って関わろう」とか、「ここを乗り越えたらきっと、患者さんの気持ちに寄り添える看護師になれる」といった記述がとても印象に残っています。

 美早は日頃から、自分より周りの人を一番に考える性格でした。自分が患者になることによって、一層そういう部分が強くなった気がします。もともと正義感の強い子で、中学生の頃には、いじめられていた友達を助けたこともあったそうです。四十九日に中学時代の友達が訪ねてきて、話してくれました。その友達自身がいじめのターゲットになっていたとき、美早が1人でかばい、それをきっかけにいじめの矛先が美早に移って、その子はいじめられなくなったというのです。なかなかできないことですよね。そんなことがあったとは、家族も知りませんでした。その友達は「あのままいじめられ続けていたら、学校に行けなくなっていました」と感謝してくれました。

病院改革に協力 「群大は変わった」と思われるように

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亡くなる前年、幼なじみと群馬県内の公園に出かけ、アイスクリームを口にしておどける美早さん

――患者参加型推進委員になられるに当たり、抱負をお聞かせください。

 大きな問題があったけれども、「群大は変わった。いい病院になった」と思ってもらえるようにすることが一番大事だと思うので、そのために遺族としてお役に立てることがあるなら、微力ながら頑張りたいです。僕のような外部の人間だからこそ見えること、言えることもあるのではないでしょうか。まだ具体的にどのようなことをする委員会なのかわからないし、すべてがこれからですが、できる限りのことはしていくつもりです。患者参加型の医療というのは、どんどん積極的に進めていくべきだと思うんですよ。日本の病院で初めての取り組みを、群大でできればいいですね。そうなれば、多くの人に「群大は変わった」と実感してもらえるのではないかと思います。

――亡くなったご両親は、今回のことをどう思われるでしょうね。

 父が生きていたら、ほめてくれただろうと思います。母は不器用だから言葉に出さないけど、喜んでくれるでしょう。両親が自分たちの闘病中、口癖のように言っていたことがあります。「同じがんでも美早に比べればマシだ」という言葉です。妹は術後の重い合併症に苦しみ抜いたので、「あんなにつらい思いをして亡くなった美早は本当にかわいそうだ」と、2人とも常々言っていました。病院の看護師さんにも話していたようです。自分がつらいときに、「うちの娘はもっとつらい思いをしたんですよ」と。そのことを思うとますます、生きている僕が遺志を引き継がないと、という気持ちが強くなります。その思いが、僕を動かしているんだと思います。

【群馬大学病院手術死問題とは】

 群馬大学病院で肝臓の 腹腔(ふくくう)(きょう) 手術を受けた患者の死亡続発が2014年に発覚し、その後、肝臓や膵臓の開腹手術でも死亡が相次いでいたことがわかった。第三者による調査委員会が発足し、病院の体制や患者への対応、診療上の問題などについて指摘した調査報告書が16年7月に公表された。一部の遺族が結成した遺族会は、小野里さんと木村豊さん(49)が代表を務め、再発防止などを求めている。群大病院は6月22日、患者参加型推進委員会の初会合のほか、職員向けに両代表の講演会も開く予定。

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高梨 ゆき子(たかなし・ゆきこ)
読売新聞医療部記者。
社会部で遊軍・調査報道班などを経て厚生労働省キャップを務めた後、医療部に移り、医療政策や医療安全、医薬品、がん治療、臓器移植などの取材を続ける。群馬大病院の腹腔鏡手術をめぐる一連のスクープにより、2015年度新聞協会賞を受賞。著書に「大学病院の奈落」(講談社)がある。

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