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老いをどこで 第2部

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[老いをどこで]地域「超高齢の村」(3)地元に特養 村に戻れた

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離ればなれの夫婦 再びそばに

[老いをどこで]地域「超高齢の村」(3)地元に特養 村に戻れた

特養がオープンし、同じ敷地内で暮らせるようになった依田さん夫婦。毎日、面会の時には手をつないでいる(南牧村の特養「かのか」で)

 過疎地に暮らす多くの高齢者は、元気に暮らせなくなると、病院や介護施設に入るために住み慣れた地域を出なくてはいけない現状がある。高齢化率日本一の群馬県 南牧なんもく 村で、そんな現状を変える挑戦が始まった。

 「もうすぐ南牧ですよ、分かりますか」「分かる、分かる」

 南牧村への県道。車窓から村の景色が見えるにつれ、依田トヨさん(89)の言葉は弾んだ。依田さんは同村出身。4月、それまで暮らした同県富岡市の特別養護老人ホームを出て、村内にできた特養「かのか」の最初の入居者になった。

 「良かったな」

 「かのか」で真っ先に出迎えて、手を握ったのは夫の高さん(88)だ。かのかの隣に立つ、元気な高齢者向けのケアハウス「いこい」で暮らす。職員も、「お帰りなさい」とトヨさんに声をかけ、立ち会った家族は涙を流した。

 依田さん夫婦は元々、村内の自宅で暮らしていた。高さんは畑仕事のほか、山菜や魚をとり、トヨさんが「面倒くさいけど喜ばれるから」と笑いながら、とれた物を近所に配った。車で40分離れた富岡市に住む長男の麻一さん(60)は高齢の両親を案じて、30年ほど前に自宅に部屋を作り、同居を促した。しかし、2人は村での暮らしを望んだ。

 状況が一変したのは3年前。くも膜下出血でトヨさんが倒れた。体が不自由になったが、村内の特養に空きはなく、同市内の特養に入居。夫婦は離ればなれになった。

 高さんは数か月の間、麻一さんの家族と同居した。しかし、周囲に知り合いはなく、人と話す機会が減り、畑をやめて足腰も弱った。2年前、村内に「いこい」がオープンしたため、1人で村に戻った。

 トヨさんが「心配で頭から離れなかった」という高さん。月に1度、トヨさんに面会に行った時は、手を握って離さなかった。

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  「南牧がいいや」と涙

 村内には以前から、定員50人の特養と9人のグループホームが一つずつある。しかし、満員で入れず、村外の施設や病院に入らざるを得ない人が多かった。特養「かのか」の新設には、村議会から「介護保険料が上がる」と懸念の声も出た。だが、「村で暮らし続けたいのに、多くの住民が村外で亡くなる現状を変えたい」(長谷川 最定さいじょう 村長)と、新設が決まった。

 特養の新設を知った高さんは、「そばにいさせてやりたい」とトヨさんを呼び寄せることを決めた。今、高さんは毎日、トヨさんに会いに行き、手をつなぐ。

 トヨさんには認知症がある。転居前、村に戻ったことをどれだけ認識できるのか、不安があった。心配をよそに、トヨさんは村外では見せなかったような笑みを浮かべ、歌も歌うようになった。顔なじみから「トヨちゃん」と慕われ、村内の親戚たちも訪ねてきてくれる。「南牧がいいや」。トヨさんは涙を浮かべた。

 高齢者の居場所が増えたとはいえ、終末期の対応には課題が残る。村には週2回、隣町から医師が通う診療所があるが、緊急時に駆けつけ、 看取みと りに対応する医師はまだいない。「かのか」でも、経験の浅い職員が多いこともあり、当面、看取りの対応はできない。

 特養に限らず、自宅でも最期を迎えられるよう、村は早ければ今年度中にも、常駐の医師を迎える。住み慣れた村で暮らし続けられるか、村の挑戦は始まったばかりだ。

  [記者考]地域のつながり 南牧村から学ぶ

 初めて南牧村を取材してから8年。東京で生まれ育った記者にとって、「限界集落」という言葉のイメージを裏切り、地域のつながりの中で生き生きと暮らす住民の姿は新鮮に映った。

 ここ数年、そんな村の暮らしに魅力を感じ、移住する若者が増えている。「自助、共助の力が強く、介護サービスなどにかかる費用、人手が少なくて済んでいる」と長谷川村長は話す。

 都市部では途絶えがちになった地域のつながりを再生することは容易ではない。医療、介護の担い手や財源の不足が叫ばれる中、自助、共助の力を取り戻すため、村から学べることは多いのではないだろうか。

 (この連載は、社会保障部・田中ひろみが担当しました)

 お便りは、メール ansin@yomiuri.com

 ファクス03・3217・9957

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