在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
「栄養指導」が憂鬱な方へ
糖尿病や脂質異常症などの「生活習慣病」と診断され、医師から「栄養指導」を受けるよう指示を受けたことがありませんか。ご家族がその立場になった方もいるでしょう。そんなとき、「栄養指導が楽しみだなあ」ではなく、「 憂鬱 だなあ」と思う方が圧倒的に多いと思います。実際、在宅医療の現場においても、医師が「栄養士さんに来てもらいましょう」と提案しても拒否される方がいらっしゃいます。
なぜ、栄養指導を憂鬱に感じてしまうのでしょうか。患者さんの気持ちになって考えてみました。
病院食がおいしくないのはなぜ?
読者の皆さんにとって、「管理栄養士」は「食事療法を指導し実践できる人」「病院給食を考えている人」というイメージが強いのではないでしょうか。一方で、入院時に「病院給食はおいしくない」という経験をされた方がとても多いのも事実です。あんな食事療法を指導されたら、たまったものではない……との心の声が聞こえてきます。
では、「病院給食がおいしくない」と感じるのはなぜでしょうか。
まずは食べる人の全身状態に問題がある場合です。仮に病院給食がおいしい料理だったとしても「そう思える体の状態ではない」ことがよくあります。大きなけがや手術、重大な病気のため、外来通院では病状をコントロールできないような状態で入院されている患者さんがほとんどです。例えば、腎機能や肝機能が著しく低下していると、体内に有毒物質がたまってしまい、吐き気や食欲不振により、「何を食べても気持ちが悪い」という状態になります。また、抗がん剤などの薬の影響で味覚障害を引き起こし、大好きだった食べ物までも、おいしいと思えなくなることもあります。
もう一つの理由は、ほとんどの病院給食が「減塩食」になっていることです。
先日退院してきたある80代の女性にも、心臓と腎臓の機能が低下しているため、1日の塩分量が5グラムに管理された病院給食が出されていました。単純に3食で割っても1食1.7グラムですね。普通のおみそ汁1杯に含まれる塩分量は1~1.3グラム程度ですので、減塩味噌やしょうゆ、うま味や酸味を最大限に生かして上手に調理をしても、かなり薄味になります。味の濃いものを好む患者さんから「味がしない」と言われても仕方がありません。
しかし、味覚は習慣に左右されます。当初は食事に苦労されていた80代の女性も、完全管理された給食を1か月ほど食べ続けているうちに、だんだん薄味に慣れてきて、全量摂取できるようになりました。適切な栄養管理により全身状態も改善したことで、その女性は無事に退院することができたのです。
残念ながら「おいしくない病院食」も現実にはあります。娘が2歳の頃、子どもに多く発症する感染症の「手足口病」がきっかけでひどい脱水状態となり、仙台市内の病院に入院したのですが、健康な私が食べてもおいしいと思えるものではなく、娘はほとんど手を付けなかったのです。「この食事では回復できない」と思い、早めに退院させてもらったことがありました。
最近では献立に工夫を凝らし、本当においしい食事を提供している病院もあります。もし、全身状態が落ち着いたのにもかかわらず、どうしても病院給食が口に合わない場合は、病院の管理栄養士さんにベッドサイドへ来てもらって、給食の内容について相談してみてください。可能な範囲で個別の対応を受けられることもあります。
「栄養指導」は誰のため?
先日、「健康栄養教室」の講師として、ある地域の集会所を訪問しました。そこで、「栄養士さんの指導通りの食生活ができないので、栄養指導が憂鬱です」という相談を受けました。私は「気持ちを正直に管理栄養士さんにぶつけてみてはいかがですか?」と提案しました。「実践できない指導をする管理栄養士」にも問題があるかもしれませんが、指導を受ける側が「自分ができるかどうかを伝えていない」ことも問題です。そして、「なぜ、できないのか」が伝われば、管理栄養士側は「ベストではないけどベターな食事方法」を提案することが可能です。
「管理栄養士が健康にしてくれる」のではなく、「健康になっていくのは自分なのだ」という気持ちを忘れないでいただきたいのです。治療となると受動的になってしまうものですが、適切な食生活に切り替えることで、医療者が圧倒されるほど病状が好転する患者さんもいます。「健康のため」に健康になるのではなく、「よりよい人生」を実現するための健康です。そのためにも、管理栄養士による栄養指導を上手に活用していただきたいと思います。
私の場合、在宅訪問栄養指導で介護者であるご家族に「こんな方法がありますが、できそうですか?」と尋ねたとき、素直に「そんなことできませんよ」と言われることがあります。そうすると、私は「うう~ん」と悩みながらも、「絶対になんとかして別の方法を見つけてあげたい」と、自分の頭の中の「栄養指導の引き出し」を全部開けてみるのです。(塩野崎淳子 在宅訪問管理栄養士)
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