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老いをどこで 第2部

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[老いをどこで]地域「超高齢の村」(2)そしてネコだけが残った

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限界集落 最後の1人も施設へ

[老いをどこで]地域「超高齢の村」(2)そしてネコだけが残った

空き家になった自宅を訪ね、周囲の山々を見つめる小須田さん(南牧村・大入道集落で)

 高齢化率日本一の群馬県 南牧なんもく 村の暮らしを支えてきた住民の助け合い、共助の力。しかし、高齢者すら減り始め、共助の維持が難しくなりつつある。

 「ここに来ると、気持ちが暴れらぁね。でも、そんなにセンチメンタルになっててもしょうがないからね」

 細くくねった急な上り坂を進んだ先、山々に囲まれた南牧村の 大入道おおにゅうどう 集落。昨年12月まで1人で暮らしていた自宅の様子を見に来た小須田福子さん(75)はつぶやいた。

 かつて100人ほどが暮らしていたこの集落に今、住んでいるのは小須田さんが飼っていた「ネコちゃん」だけ。小須田さんが暮らす村内の高齢者施設では猫が飼えないため、こうして月3回ほど、村外に住む子どもたちの車に乗せてもらい、空き家になった自宅を訪ねている。ネコちゃんの餌やりに、そして、季節ごとにうつろう自宅からの懐かしい山々の景色を眺めに。

 集落に最後まで残ったのは、小須田さんら3軒の5人。小須田さんが最年少だった。みんな畑仕事をしたり、おかずのお裾分けをしたり。唯一、車が運転でき、妻と2人で暮らしていた林 良寿郎りょうじゅろう さん(81)が「万年区長」を務めた。道路に落ちてくる石や枯れ枝を拾うのも、暮らし続けるための大事な仕事だった。

 しかし、住民が年をとるにつれ、支え合う暮らしは終わりを迎えた。

 最初に集落を出たのは集落最高齢の佐藤勇さん(86)とセツ子さん(83)夫婦だった。

 佐藤さん宅は、村の生活を楽しもうと旅行者が繰り返し訪れ、夫婦がユーモアを持って出迎えていた。車で40分ほど離れた同県富岡市に住む長男、隆平さん(56)は、「10年くらい前から村を出て一緒に暮らそうと誘っていたけれど、うちに来れば周りに知り合いもいないから」と、村での暮らしを見守ってきた。

 けれど2年前、病気がちだった勇さんに加え、セツ子さんもめまいを感じるように。「村にいたい」という2人を説得し、隆平さんの自宅に移った。勇さんは昨年、市内の特別養護老人ホームに入居。県内の介護施設で働いていた隆平さんはそのホームに転職し、勇さんに寄り添った。

 先月11日、勇さんはホームで息を引き取った。亡くなる1週間前、何度も「家に行きたい」と言っていた勇さんを隆平さんが車に乗せ、1日だけ、大入道の自宅に戻った。久しぶりに良い笑顔を見た。それでも、隆平さんは2人を村から連れ出した決断を後悔していない。「本人がいくら望んでも、やはり最期までは難しかった」と思っている。

 「お茶飲みに行けるようなお隣がいなけりゃ、何かあった時に困るもの」

 小須田さんが集落を出たのは、「万年区長」として集落を支えた林さん夫婦が、良寿郎さんの病気を機に村外の高齢者施設に移ったからだ。

 小須田さんも昨夏、おなかの病気で一時、入院。集落に残された最後の1軒になった小須田さんを「雪が降ったら誰も駆けつけられない」と、村外で暮らす子どもたちは心配した。

 「私は村の施設にちょうど空きが出たから、ネコちゃんにも会いに来られる。今の暮らしに感謝しなけりゃね」。小須田さんは自分に言い聞かせるように、そう話した。

全国174集落が消滅 5年間で

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 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2045年に南牧村の人口は、15年から77%減の455人に落ち込み、うち6割以上を75歳以上が占める。集落を維持できなくなるケースが増える可能性がある。

 村も自助、共助力を維持しようとしている。今秋、東京都健康長寿医療センターの医師らの協力を得て、75歳以上の全住民を対象に、運動能力や認知機能を測る検診を始める。介護が必要になるリスクが高い人に、介護予防のメニューを提供する方針だ。

 「同じ集落でも顔を合わせる機会が減っている」という声を受け、2年前から「集落支援事業」を始めた。花見などの行事にお金を出すというものだ。高齢で車の運転をやめる住民が増えると見据え、群馬大と自動運転の実証実験を行うことも検討している。「将来的に、各集落に1台ずつ置いて住民が共有で使える形にしたい」(長谷川 最定さいじょう 村長)という。子育て世帯の移住も促している。

 国の15年度の調査では、65歳以上が半数以上を占める「限界集落」は1万5568あり、5年間で174集落が消滅した。いずれ消滅する可能性があるとされる集落は3044に上る。都市部より一足早く人口減少に直面する全国の過疎地にとって、自助、共助の力をどう守るかは共通の課題だ。

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