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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

病気でも社会とかかわりたい…生活保護「自力で抜け出した!」――小林エリコさんに聞く(下)

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小林エリコさんが2017年3月に描いたイラスト。子どもの頃から絵を描くのが好きだった小林さんは、生活保護を脱し、メンタルな状態が良くなってから、自分の作品をネットで発表している

働きをお金で評価してほしい

――仕事、収入、暮らしと三つ挙げると、どれが大事ですか?

 「私の場合は、お金を稼ぐ手段としての仕事ですね。自分の労働をお金という形でちゃんと評価してもらいたい。福祉的就労だと、そこが納得できません。精神科のデイケアに通っていた時、クリニックから提案されて、利用者4人で洋菓子屋を開いたことがあるんですが、週3回、朝から夜まで働いて、1か月分としてもらった額が1万円ちょっと。なんだかなあ、という感じで……」

――仮に障害年金が2倍になれば、最低限の生活はできると思うのですが、それでも働きますか? 

 「働きますね。私の場合、仕事のない状態は耐えられない。社会にかかわるという意味も大きいですね。生活保護の時は、引け目を感じて、友達とのつきあいも減りました。一緒に居酒屋へ行こうと思っても、お金が足りないという面もあったのですが」

――暮らせる収入に加えて、自分が社会的にちゃんと認められることが大事なんでしょうね。

小さな成功の積み重ねで自信

――小林さんが再生できたのは、なぜでしょうか? コンボで働いているうちに、病気が良くなっていったという面があるのではないですか。

 「それはあるように思います。精神障害者のためのNPOだから、病気のことを理解して接してもらえたのは大きいですね。病気であることを隠さないで済む。無理のない量の仕事にしてくれて、複数のことを同時にやるのが苦手なので、そこにも配慮してもらえました。あと大きいのは、怒られたり否定されたりしないことですね。何か作業をしたときにも、当然という態度ではなくて、『ありがとう』と言ってもらえます」

――認められること、小さな成功を積み重ねることが大事なんでしょうね。

 「はい。プラスの言葉は、とても大事だと思います」

――どうせ自分なんて、とあきらめている人たちもいますよね。能力的に働くのが難しい人たちもいます。そういう人たちは、どうすればいいのでしょうか。

 「私の場合は働いて稼ぐことが大事ですが、何が大切かは人によって違いますよね。いちばん大事なのは本人のニーズ。障害者でも働きたい人はいるし、仕事と関係ない価値観で生きていける人もいる。病気で働けない人なら、働くこと以外の社会とのかかわり方もあるでしょう。それは、周りの人や支援する人が提案してくれるといい。ただし、押しつけられるのはイヤですね」

――周りから、どんなサポートがあるといいですか?

 「まず情報提供ですね。生活保護もそうだし、障害者福祉サービスや障害年金、障害者手帳といった仕組みを知らなかったりする。私も当事者(障害の仲間)から教えてもらったことが多いです。もう一つは孤独にさせないことですね。メールや電話をするとか、お茶に誘うとかしてくれるとありがたい。その中で、プラスの方向に気持ちをサポートしてほしいです」

病気である自分を否定しない

――本の中に、北海道の精神障害者施設「べてるの家」が出てきますね。どんな関係ですか。

 「短大の時、ある先生に教えられて興味を持ちました。実際に訪ねたのは30代になってからです。べてるの家では、病気があることによって生かされていると考えるんです。製薬会社の講演会に出たメンバーが『幻聴がなくなったらさみしくなるので、幻聴がなくなる薬を作らないでください』と言ったり。面白くて、深いですね」

――精神医学は、病気を否定的に見て、治そうとするのですが、簡単には治らないことが多いわけです。精神障害の人も、病気や障害をよくないことと考えていると、病気である自分を否定することになる。そこの考え方を変えないと、苦しいですね。

 「私も病気だから、本を出せたわけだし」

――そうですよね。病気である自分を否定せずに、新しい価値や役割を見いだすのが「リカバリー」ではないでしょうか。

 「人間はみんな役割がほしいんじゃないですか。何の役割もない人生ってさみしすぎる。病気であっても、社会にかかわりたいですから」(原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)

 こばやし・えりこ
 1977年生まれ、茨城県出身。現在も精神科に通院しながらNPO法人で働く。ミニコミ紙「精神病新聞」を発行し、漫画家としても活動。いじめを受けた子ども時代を描いた漫画「宮崎駿に人生を壊された女」をネットで発表し、話題になる。『この地獄を生きるのだ』は、同人誌即売会で販売した手記を大幅に加筆修正した。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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