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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

病気でも社会とかかわりたい…生活保護「自力で抜け出した!」――小林エリコさんに聞く(下)

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「役割がほしい」「社会とかかわりたい」――小林エリコさんに聞く(下)

 うつ、自殺未遂を繰り返し、精神障害者として生活保護で衣食住を維持する。そういう暮らしだった小林エリコさん(40)は、どのようにして再び働けるようになったのか。人が前向きになっていくために大切なものは何でしょうか。

制度は必要だが、稼げない自分に納得できず…

――小林さんは、生活保護の時期が一番つらかったと、著書『この地獄を生きるのだ』に書いておられます。生活保護を利用することに、抵抗感が強かったんですね。

 「私自身は納得いかなかったですね。過去に正社員として自分で稼いで食べていたから、働かないでお金をもらうのは、みっともない感じがしたんです」

――でも、生活保護制度そのものに、否定的なわけではないんですね。

 「貧しくても飢え死にしなくて済むのはよい制度で、他の人が利用することに抵抗感はありません。いま健康で働けている人も、いつ病気や事故などで弱者になるかわからないので、他人ごとと考えないでほしいですね。貧困のせいで自殺したり精神を病んだり犯罪に走ったりするぐらいなら、生活保護を受けて、生活を立て直したほうがいい。安い給料で編集者をしていて自殺を図った時の私にも、そう伝えたいですね」

――働いていても収入が基準より少なければ、差額分を受け取る形で生活保護を利用できますからね。ただ、仕事をしていない人が生活保護を利用した場合、高齢、病気、障害といった要因がなければ、早く働くように、ハローワークに通って仕事を見つけるように、ときつく言われたりします。

 「私の場合は、精神障害者ということで、そういうプレッシャーはなかったですね。生活保護のケースワーカーからは『精神の人は働けないから』って言われました。それがつらかった。私には希望がない、価値がないと言われている感じでした」

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小林エリコさんの著書『この地獄を生きるのだ』(イースト・プレス)

ボランティアから非常勤雇用に

 ――やがて小林さんは、コンボ(地域精神保健福祉機構)というNPO法人で働き始めたんですね。

 「通っていたクリニックの待合室に、コンボが発行している雑誌があったんです。私はマンガ雑誌の編集者をしていたから、使ってもらえるかもと思って、直接、電話してみました。その時は、今は人が足りているから、と断られた。でも後になって、マンガの単行本を作るのを手伝ってほしいと電話がかかってきたんです。ボランティアということでしたが、何らかの足がかりになるだろうと思って、やることにしました」

――経験のあるマンガの編集をしたわけですね。

 「うつ病の人が送ってきていたマンガの原稿を、大幅に組み立て直して、単行本にする仕事です。その単行本ができるまで3年ぐらいかかったのですが、ボランティアを始めて1年ぐらいたった頃に『非常勤雇用で働いてみない?』と事務局長から声をかけられたんです。手の空いたときに事務や雑用をコツコツ手伝っていたことが評価されたみたいです」

――ふだんの様子を認めてもらって、仕事に就けたわけですね。

 「10年ぶりに給料袋をもらったとき、上司から『働けたのに、いままでもったいなかったね』と言われて、泣きそうになりました。その後、だんだん収入が増えて、障害年金と合わせると、生活保護の基準を上回るようになりました。非常勤になって半年くらいで、生活保護が廃止になったと記憶しています。その通知が市役所から届いた時はうれしくて、うれしくて……。自分で生活保護を抜け出したぞ、って大声で自慢したかったです。それがたしか34歳の時ですから、3年間ほど、生活保護を利用していたことになります」

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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