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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

コラム

はしか対策…日本で流行が止まらない理由

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予防接種の仕組みからこぼれ落ちる人たち

 それにしても、07年の「予防指針」で、「1歳児」「就学前」や、「中学1年相当」「高校3年相当」などに明確に接種年齢が決められているのに、麻疹への抗体を十分に持っていない人が多いのを不思議だと思いませんか?

 これは、「風邪をひいた」「仕事が忙しかった」などの理由で、スケジュールの期限内に予防接種を受けられなかった人が大勢いるからです。世の中は必ずしも設計通りには進まず、仕組みからこぼれ落ちてしまう人が出てくるのです。

世界から「周回遅れ」の現状…「キャッチアップ」制度の導入を

 ぼくが提唱し続けているのが接種の「キャッチアップ」です。追いつくという意味で、定期予防接種のスケジュール対象外の年齢であっても、必要な人には無料でワクチンを提供する制度です。スケジュールの対象年齢から外れても、定期接種を受けられるようにするのは、国際的には常識です。米疾病対策センター(CDC)はキャッチアップに特化した 情報提供 をしています。

 話を神戸大学に戻しますと、08年以来、入職者と学生に麻疹ワクチンの接種か抗体検査を必ず受けさせるようにしました。でも、これを聞いて、「神戸大学、スゴイ~」などと思わないように。海外の大学なら、昔からこのくらいはやっているのです。

 昨年、厚労省がマジンガーZを使って「麻しんがゼロ」と、 啓発ポスター を出したとき、「なかなかやるじゃないか」と褒める人がたくさんいました。

 しかし、ぼくはむしろがっかりしました。「ワクチン予防接種を検討してください」と書いてあるだけで、「接種すべきです」とはしていなかったからです。

 たとえば、 CDCは麻疹の免疫がはっきりしない人に対し、「麻疹ワクチンが必要だ(need)」とか「ワクチン接種を受けるべきだ(should)」と強く勧めています。

 麻疹対策の方法はわかっています。わかっているのに、なぜ、その対策を取れないのでしょうか。ぼくはいつも不思議に思っているのです。(岩田健太郎 感染症内科医)

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iwaken_500

岩田健太郎(いわた けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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2件 のコメント

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社会防衛意識の欠如

たそがれ権兵衛

ワクチンなどでの予防には2つのタイプがあると思います。 一つはおたふく風邪や子宮頸ガン、日本脳炎のように重篤な後遺症の危険を持つ病気に対して少し...

ワクチンなどでの予防には2つのタイプがあると思います。
一つはおたふく風邪や子宮頸ガン、日本脳炎のように重篤な後遺症の危険を持つ病気に対して少しの予防措置で回避できる個人を主体にした防衛策。
もう一つは感染力が強くて社会全体で統一した対策が必要な伝染病、麻疹や結核はこれにあたるでしょう。
後者の場合はそれこそ社会が早い段階から漏れなく予防接種を受けなければならないのに、どうも日本は対策導入が遅れたり個人の自由に委ねたりする傾向がないでしょうか。国を越えて人間が頻繁に往来する今日、日本だけが独自のルールでは世界から非難の的にもなりかねません。行政当局はWHOなどが定める世界標準の徹底を図るべきです。

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医師は予防の専門家でないから?!

みんちゅ

公衆衛生の父とされるジョンスノーは1850年代の医師で、コレラ(コッホが病原体であるコレラ菌を発見するのは1890年前後)が水系感染することをデ...

公衆衛生の父とされるジョンスノーは1850年代の医師で、コレラ(コッホが病原体であるコレラ菌を発見するのは1890年前後)が水系感染することをデータを持って示し、汚染された井戸の使用を禁止することで、新規患者の発生を防いだ功績が有名です。

ところで、医師は病気の専門家であっても、健康科学・公衆衛生学の専門家ではないことが通例です。特に日本国においては、白衣を着て病院・医療機関で待ち構えており、どこかで発生した病気の患者を「治す」役割のみを求められているような印象を受けます。

唐代の中国には「上医は国を癒す・医す」という言葉があるようですが、新聞に記事を書かせてもらえるような発言力のありそうな大学の先生が「わかっているのに、なぜ、その対策を取れないのでしょうか。ぼくはいつも不思議に思っているのです。」などと、本質的な対策のためにupstreamに働きかけができないのは、「感染症内科」という狭い世界に閉じこもっているからでしょうか。

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