文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

コラム

小児がんとの闘い(1) 「見捨てるんですか!」母の一言で治療を続行 抗がん剤の重い副作用を乗り越え

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 小児がんは80%が治る時代になったと言われます。しかしそれは主に、小児白血病と、転移のない小児固形がんのことです。私は大学病院に在籍していた当時、神経芽腫という固形がんを治すことに全力を挙げていました。

 神経芽腫は、背骨のすぐ横にある交感神経から発症する小児がんです。頸部(けいぶ)から胸の中、そしておなかの中までいろいろな部位から発生します。そして、この病気の特徴は、1歳を過ぎると全身の骨に転移することです。大量の抗がん剤を用いて治療するにもかかわらず、助かる可能性はおよそ30%くらいです。この30年間、治る確率はほとんど改善されていません。

命を奪いかねない副作用

 強力な抗がん剤を使った治療は、子どもの体に非常に強いダメージを与えます。場合によっては、抗がん剤の副作用で命を失うことすらあります。私がまだ若手だった頃に大学病院で治療をしていた深雪ちゃん(3歳)の場合も、どこまで抗がん剤治療を続行するか悩みました。

【名畑文巨のまなざし】
ポジティブエナジーズ(その2) 世界をめぐって出会ったダウン症の子どもたちは、みなポジティブなエネルギーにあふれていました。イギリスで撮影したセブくん。3人兄弟の長男ですが、弾けるように元気で強いパワーがありました。彼の前向きなエネルギーが家族にいい影響を与えているのでは?と、そんな気がしました。イギリス・バース市にて

 深雪ちゃんの神経芽腫は胸の中にありました。腫瘍は全身に転移していました。こういう時、まず6回の抗がん剤治療をおこないます。エンドキサンやシスプラチンといった抗がん剤を多数組み合わせて、4週に1回の割合で抗がん剤を使います。6回と言えば、半年かかることになります。4週ごとに治療をおこなう理由は、副作用が強烈で、その回復に3週間以上かかるからです。

4週ごとの抗がん剤治療 親子で懸命に耐え

 6回の抗がん剤治療で、全身に広がったがんは消えました。そこで、手術によって深雪ちゃんの胸を開き、病気の大元となっている原発腫瘍を摘出しました。この段階では、深雪ちゃんの体内には、一見どこにもがんがないように見えます。これを完全寛解といいます。ですが、神経芽腫という病気は、この段階で治療をやめると、間違いなく再発して子どもの命を奪うのです。

 そこでとどめの治療として、14回の抗がん剤治療を追加します。つまり、4週ごとの治療をさらに14回、1年以上行うのです。

 深雪ちゃんは抗がん剤治療に懸命に耐えました。髪の毛がなくなり、大量に嘔吐(おうと)し、連日高熱に見舞われ、頻繁に輸血をくり返し、抗がん剤治療を続けることで完全寛解の状態を維持していました。付き添いで一緒に病院に寝泊まりしていた母親も、深雪ちゃんと共に必死に耐えているように見えました。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

inochihakagayaku200

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

matsunaga_face-120

松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)など。2017年11月、『子どもの病気 常識のウソ』(中公新書ラクレ)を出版。

ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

名畑文巨(なばた・ふみお)

1958年、大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは http://www.fumionabata.com/index.html

名畑文巨ロンドン展報告

いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたちの一覧を見る

最新記事