精神科医・内田直樹の往診カルテ
医療・健康・介護のコラム
家族と共に自分の最期を考える「アドバンス・ケア・プランニング」
皆さんは、ご自身の最後をどう迎えたいか、というイメージを持っていますか? そしてそれを家族など身近な人にはっきりと伝えていますか?
医療の発展で、様々な手段による延命が可能になりました。しかし、終末期に、自分で意思決定できるのは10人に3人くらいしかいないのが現実で、認知症高齢者に限った話ではありません。代わって家族が判断を求められるケースが増えています。
脳出血後、娘も認識できず
福岡市のAさん(87)は、元華道の先生で、お仕事以外にも油絵を描いたりコーラスに参加したりと大変活発な方でした。夫亡き後、2年前に自立型の有料老人ホームに入所。予備校講師をしている独身の長女は東京で、結婚している次女はホームの近くに住んでいました。
昨年3月、Aさんは施設内で倒れているところを発見されました。自室に戻る途中だったようです。搬送先の救急病院で右脳内の出血がわかり、血腫除去術を受けました。
一命はとりとめたものの、Aさんには左片麻痺に記憶障害などの高次脳機能障害が残りました。1か月後にリハビリ病院に移りましたが、まひのために飲み込みができず、誤嚥性の肺炎を繰り返しました。主治医は胃瘻を提案しましたが、次女が拒否したため、鼻から管を入れて胃に栄養剤を流す「経鼻経管栄養」という方法がとられました。
Aさんは、面会に来る次女と会話はおろか、視線を合わせることもできません。鼻の管を抜こうとするため、手にはミトンがはめられました。半年間の入院中はリハビリが試みられましたが、何も改善しないまま、入院期限の10月になりました。
看取りに直結する治療の中止 娘は判断できず
施設に戻る前、次女は病院の主治医から、1)管はリハビリのために入れた 2)リハビリの終了に伴い管を抜きたい 3)ついては了承がほしい――と言われました。管を抜けば栄養は取れないため、そのまま看取りとなる、とも説明されました。
次女は困りました。毎日見舞っていた母の命を自分の判断で終わらせられない。でも、長女は電話口で「先生が抜いた方がいいって言うなら、抜いたらいいじゃない」と、にべもない様子です。仲の良かった姉妹の関係がおかしくなってきました。
ほおに管をテープで張られたAさんが施設に戻り、私が訪問診療にうかがいました。診察後、ケアマネジャーなども交えた話し合いで、私は次女にこう提案しました。
「お母さんは、脳出血の影響でもう自分のことを判断できません。でも、もしわかっていたらお母さんがどう判断するかを、お姉さんと一緒に話して、その結果を教えてくれませんか」
次女は、さっそくそうすると言い、こう付け加えました――。「母が今の状況を自分で見られたら、『すぐにチューブを抜いてくれ』と言うに決まっています。気高い人でしたから」
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