精神科医・内田直樹の往診カルテ
医療・健康・介護のコラム
家族と共に自分の最期を考える「アドバンス・ケア・プランニング」
思い出話の後に、姉妹で決断
翌朝、長女から私に電話がありました。前夜は母の思い出話で妹と話がはずんだそうです。そして、自分はすぐには来られないが母のために速やかに鼻の管を抜いてほしい、と言われました。
その日の夕方、次女の前でAさんのミトンをはずしました。すると、Aさんはすぐさま、自分で鼻の管を抜きました。そして、2週間後、長女ら家族に囲まれて旅立ちました。
今回、私は厚生労働省が平成19年に発表し、同27年に改定した「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」(その後、平成30年に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」へ改定)に沿って対応しました。ガイドラインは、医療とケアの内容は患者本人が決めるものだが、患者が判断できない時は、家族が患者の意思を推定し、その推定意思を尊重した上で、患者にとっての最善の治療方針をとるとしています。
しかし、もしAさんがあらかじめお嬢さんたちと自分の最期について話をしていたら、私の出番はもちろん、次女の苦悩や姉妹間のあつれきも生まれずに済んだかもしれません。
本人が望んだであろう最期を代わりに決めるACP
最近、医療・介護の現場では、「アドバンス・ケア・プランニング (ACP)」という考え方が注目されています。将来の治療とケアについて医療者が患者や家族とあらかじめ話し合う、積極的な「道程」です。
これまでも、終末期にどこで治療を受けたいか、延命治療を望むかなどを記した事前指示書やリビング・ウィルはありました。ACPでは、本人が意思決定できなくなった時に備え、代わりに意思決定する代理決定者を決め、話し合いの場にも同席してもらいます。何度も本人と一緒に臨むことで、本人の意思を推定しやすくなります。
ACPが当たり前の姿になれば、だれもが自分の望む形で最期を迎えられ、周囲にも悔いのない見送りをさせられるのではないか、と思います。(内田直樹 精神科医)
2 / 2
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。