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医療・健康・介護のコラム
やめたくてやめるわけではない「不妊退職」
「仕事に不満でもあるのか?」「どうして、一時的な休みじゃだめなの?」「状況を話してもらえれば、対応を考えられるから……」――。
なだめたり、すかしたりして引きとめようとする上司に、Mさんは口を濁し、「家庭の事情で……」の一点張りで通しました。
Mさんが最後まで周囲に明らかにしなかった理由。それは「不妊退職」だったのです。
仕事と両立しづらい不妊治療
不妊治療をしているカップルは今や5.5組に1組。さらに不妊に悩んだことのあるカップルは3組に1組と決して少なくなく、職場に必ず何人かはいる計算になります。
しかし、その多くは不妊の悩みを周囲の人に話しておらず、それに気付く人はほとんどいません。
働きながら不妊治療をしている女性の大きな悩みは「仕事と治療の両立」です。日本では、今、これが知られざる、しかし、それゆえに深刻な社会課題の一つです。
私が代表を務める「NPO法人Fine(ファイン)」は、不妊体験者を支援する自助団体です。私たちが不妊当事者を対象に2017年に調査した「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」(2017年)によると、5,127人の回答者の約96%が「不妊治療と仕事との両立は難しい」と回答しました。
このうち「仕事との両立が困難で働き方を変えざるを得なかった」と答えた人が約41%(2,232人)と4割を超え、さらにその半数、つまり全体の約2割が「退職を選んだ」と答えていました。
回答者の年齢で最も多かったのは35~39歳(33%)です。まさに、責任のある立場にいたり、プロジェクトリーダーとして活躍したりしている年代でしょう。その2割が退職しているという事実は、女性活躍や労働者不足の深刻化が叫ばれている昨今、大きな社会的損失と言わざるを得ません。
では、なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか。
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