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医療・健康・介護のコラム

やめたくてやめるわけではない「不妊退職」

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知られていない不妊治療の特殊性

 

 最大の要因は、不妊治療の特殊性が知られていないことにあります。不妊治療の最大の特徴は、急な通院が何度も必要になることなのです。

 不妊治療では、卵子を育てるためにホルモンを注射で投与します。その後は、卵子(正しくは卵胞)がちゃんと育っているかどうかを、1周期(約1か月)の治療につき、人工授精なら4~6回、体外受精なら5~10数回程度、確認します。つまり、ホルモン注射を受ければそれで済む、のではなく、単純計算で、前者なら1週間に最低1回、後者なら多い場合は3日に1回、病院に行く必要があります。

 採卵の日取りも、卵胞の成長次第。「明日、来て」「あさっても来て」と言われることがあれば、「明日、採卵します」と決まってしまうこともあります。

 採卵した卵は体外で受精させますが、体内に戻す(胚移植)前に、数日間、培養します。この培養日数も、病院によって、あるいは卵の状態によって、3日だったり5日だったりします。すべては卵子(受精卵)の状態で決まり、自分でコントロールすることは不可能なのです。

決してやめたいわけではない「不妊退職」

 通院のために頻繁に遅刻や早退、または欠勤を繰り返せば、仕事に支障をきたします。「不妊治療をしている」と職場で話していなければ、周囲は戸惑うばかりです。どんなに頑張っていても、理解や協力を得るどころか、信用をなくしてしまうでしょう。

 実際に、そのために職場に居づらくなり、退職や転職を選ぶ人が後を絶たないのです。前出のMさんも、「これ以上、周囲に迷惑をかけられない」と思ったそうです。新規プロジェクトのリーダーの話はうれしかったし、やりたい気持ちは大きかったけれど、今、機会を逃したら、子どもを持てないかもしれない不安もぬぐえなかったとのこと。「責任のある立場になったら、それを果たせなくて心苦しいと思うし、もし仕事を優先させたら治療ができなくなる」と悩んだ挙句の決断でした。

 Fineのアンケートでも、Mさんのように周りに迷惑を掛けていることへの申し訳なさやつらさが重なり、最終的に退職を余儀なくされた人の姿が目立ちました。しかも、その多くが「続けられるなら仕事を続けたかった」と答えていました。

 仕事にやりがいを感じ、キャリアを積み上げてきた女性たちが不妊治療のために諦めていくのは、本当に残念なことです。どちらも両立できる環境が必要だと思います。(松本亜樹子 特定非営利活動法人Fine=ファイン=代表)

 

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松本 亜樹子(まつもと・あきこ)
NPO法人Fineファウンダー・理事/国際コーチング連盟マスター認定コーチ

松本亜樹子(まつもと あきこ)

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

野曽原 誉枝(のそはら・やすえ)
NPO法人Fine理事長

 福島県郡山市出身。NECに管理職として勤務しながら6年の不妊治療を経て男児を出産。2013年からNPO法人Fineに参画。14年9月に同法人理事、22年9月に理事長に就任。自らの不妊治療と仕事の両立の実体験をもとに、企業の従業員向け講演や、自治体向けの啓発活動、プレコンセプションケア推進に力を入れている。自身は、法人の事業に従事しながら、産後ドゥーラとして産後ケア活動をしている。

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