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コラム

やめたくてやめるわけではない「不妊退職」

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 大手旅行会社に勤めるMさんは、働き盛りの39歳の女性でした。真面目で仕事熱心な彼女は周囲からの信頼も厚く、上司から「来期は新規で立ち上げるプロジェクトを一任する」という話ももらっていました。そんなMさんが、ある日上司に「辞職願」を出しました。

 「仕事に不満でもあるのか?」「どうして、一時的な休みじゃだめなの?」「状況を話してもらえれば、対応を考えられるから……」――。

 なだめたり、すかしたりして引きとめようとする上司に、Mさんは口を濁し、「家庭の事情で……」の一点張りで通しました。

 Mさんが最後まで周囲に明らかにしなかった理由。それは「不妊退職」だったのです。

仕事と両立しづらい不妊治療

 不妊治療をしているカップルは今や5.5組に1組。さらに不妊に悩んだことのあるカップルは3組に1組と決して少なくなく、職場に必ず何人かはいる計算になります。

 しかし、その多くは不妊の悩みを周囲の人に話しておらず、それに気付く人はほとんどいません。

 働きながら不妊治療をしている女性の大きな悩みは「仕事と治療の両立」です。日本では、今、これが知られざる、しかし、それゆえに深刻な社会課題の一つです。

 私が代表を務める「NPO法人Fine(ファイン)」は、不妊体験者を支援する自助団体です。私たちが不妊当事者を対象に2017年に調査した「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」(2017年)によると、5,127人の回答者の約96%が「不妊治療と仕事との両立は難しい」と回答しました。

 このうち「仕事との両立が困難で働き方を変えざるを得なかった」と答えた人が約41%(2,232人)と4割を超え、さらにその半数、つまり全体の約2割が「退職を選んだ」と答えていました。

 回答者の年齢で最も多かったのは35~39歳(33%)です。まさに、責任のある立場にいたり、プロジェクトリーダーとして活躍したりしている年代でしょう。その2割が退職しているという事実は、女性活躍や労働者不足の深刻化が叫ばれている昨今、大きな社会的損失と言わざるを得ません。

 では、なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか。

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松本亜樹子(まつもと あきこ)

NPO法人Fine理事長/国際コーチ連盟認定プロフェッショナルサーティファイドコーチ

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

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