在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
食事中にむせてしまうのは、姿勢が原因かも
お昼どきのとあるデイサービスを見学させていただきました。そこには私が訪問している患者さんが週に2回通っており、いつもどのような食事をしているのかを知るためです。
食堂のテーブルを複数の利用者さんが囲んでいます。やがてそれぞれのテーブルに一人一人の名札がついた給食が運ばれてきます。糖尿病の食事だったり、飲み込みやすく配慮された食事であったり。運ばれてすぐに食べ始める人もいれば、認知機能の低下で「食べ始めること」ができず、動きが止まってしまっている人もいますが、スタッフの優しい声かけやサポートによって、食事を始めることができます。
しかし、食事の途中で激しくむせこむ音が食堂に響きました。気をつけて見ると、何人もの利用者が時々むせこんでいるのです。ある人は、むせこんだことがきっかけで「食べる意欲」をなくしてしまいました。
「老嚥(ろうえん)」は加齢とともに起こりやすい
皆さんは、ふかし芋など「モサモサした食べ物」を食べていて、むせたことはありませんか? 私は、激しくむせこんだことが何度もあります。健常な人でも、誤って唾液や食べ物が気管に入ってしまう「 誤嚥 」を起こすことがあるのです。
高齢になると、身体は衰えていきます。スタスタと歩いていた若いころと違って、速く歩くことが難しくなってくるように、「飲み込む」という動作の能力も衰えていきます。
「飲み込み」に関係している筋肉や筋力が減少したり、唾液の分泌が少なくなることで口の中が乾燥したり、虫歯や歯周病により歯が抜けてしまって、 咀嚼 力が低下したり。加齢に伴う「食べる機能の低下」が原因で飲み込む力が衰えることを「 老嚥 」と呼びます。
しかし、「高齢だから仕方がない」と「むせこみ」を放置していたら、「誤嚥性肺炎」を引き起こすことがあります。患者さんの免疫力が低下していたら、最悪の場合は死に至ることもあります。「なぜ、むせこんでしまうのか?」「どうしたらむせこみを最小限にできるのか?」を考え、食べ物の形や軟らかさだけでなく、「食べる姿勢」が適切であるかどうかに気を配る必要もあります。
高齢者の「背中を丸めて食べる姿勢」には要注意
腰が「くの字」になったり、 円背 によって背中が丸く曲がったりしている高齢の方を見かけませんか。私が訪問していたお宅でも、腰が曲がっているために、立って料理しているのに「目線とキッチンの高さがほぼ同じ」になっている高齢女性がいました。食材を切るときには、まな板と包丁が目の前に迫っています。椅子や床に座っていると「テーブルの高さ」が目線と同じくらいになってしまい、食器などは、どうしても 顎 を突き出すような姿勢で見たり、手にしたりすることになってしまいます。実はこれが、「飲み込みにくい姿勢」なのです。
例えば、天井を見上げて唾液を飲み込んでみてください。このときに「のどぼとけ」を触ってみると、「ゴクン」と同時に上に動いているのが分かります。飲み込むときにはこの動きが欠かせないのですが、天井を向いたままだと、首の筋肉がつっぱった状態になっているため、「ゴクン」とするのにかなりの力が必要であることがわかります。逆に、少しうつむくようにして顎を引いて唾を飲み込んでみると、少しの力でも大丈夫です。私達は普段、無意識にこのような姿勢で食事をしていますが、高齢の方にも、「飲み込みやすい姿勢」を作り出せるようにサポートしてあげることで、「むせこみ」が減らせるかもしれません。
座り方とテーブルの高さ、食器の位置にも注意して
では、姿勢を調整するにはどうすればいいのでしょうか。
顎が前に突き出てしまう方の場合は、机の高さを低くしてみたり、軽いプラスチック製のお茶わんやお皿に変えて、食器を手に持って食べてもらうようにしたりすると、視線が下がるため顎を引くことができます。また、車いすで食事をしている方の場合、足が床についていないと姿勢が安定しません。台などを置いて、足の裏がしっかりつくようにしてください。体がどちらかに傾きがちな方なら、クッションや丸めたバスタオルを使って、椅子や車いすとわきの間の隙間を埋めることで安定します。
しかし、重度の 麻痺 などがある患者さんの場合には、より専門的な「姿勢を調整する技術」が必要です。私は時々、訪問する理学療法士さんや作業療法士さんに同行して、より安全で安楽に食事ができる姿勢を教えてもらっています。(塩野崎淳子 在宅訪問管理栄養士)
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