田村編集委員の「新・医療のことば」
医療・健康・介護のニュース・解説
ロボット手術・・・保険適用の手術が拡大
「もう戻れない」
「もう元(の手術法)には戻れない」――。ロボット手術に熟練した泌尿器科医から聞いた言葉です。
前立腺がんのロボット手術は、2012年に保険適用になるや、急速に広がりました。今では前立腺がん手術の7、8割に達するとみられます。
前立腺がんは、PSA(前立腺特異抗原)検診の普及で、2000年前後から早期で見つかるケースが増えました。ただ、手術は、狭くて視野の悪い骨盤の奥深くで周囲の神経や血管を傷つけないようにしなければならないため、難しいことで知られます。だからこそ、ロボットの威力が発揮されたという面もあるようです。「前立腺がんの手術はロボット以外では行うべきでない」という声すら耳にします。
16年に保険適用になった腎臓がんの部分切除も、手術件数が増えています。
症例数など施設基準に
では、今回新たに保険適用になった手術も、同じように一気に広がるのでしょうか。それには慎重な見方が強いようです。
今回の保険適用に際して、手術の種類ごとに実施可能な施設基準が設けられました。
たとえば肺がん手術であれば、「(1)肺がんのロボット手術を10例以上経験のある常勤医が1人以上いること、(2)病院として肺がん手術を年間50例以上、そのうち胸腔鏡やロボット手術を20例以上実施していること、(3)5年以上経験のある呼吸器外科医の常勤医が2人以上、うち1人は10年以上の経験があること」――などが条件です。さらにロボット手術は全例、手術の全国データベース(NCD)に事前登録することが義務付けられました。
また、前立腺や腎臓の部分切除と異なり、今回追加された12種の手術費は、普通の内視鏡手術と同額に抑えられました。これではダビンチの機器にかかる費用が加わる分、病院側にとって金銭的にはむしろマイナスです。「もうかるから」という理由は、普及の動機にならないでしょう。
じっくり説明を聞いて
診療科によっても、取り組みに差があります。
胃がんなどの消化器分野は比較的進んでいると見られますが、それでも経験豊富な医師や病院は限られます。
保険適用によって、治療法の選択が増えたことは事実です。ただし、ロボット手術は、開腹手術はもちろん、従来の内視鏡手術とも全く違う手術法です。手術を受けるどうかにあたっては、執刀医の手術経験はどうなのか、経験の少ない医師が行うのであれば、経験豊富な医師が来て指導するといったカバー体制をとっているかなど、よくよく説明を聞き、納得した上で決めたいものです。 (田村良彦 読売新聞東京本社編集委員)
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整形外科学会に来ています。 ダビンチではなく、骨切りのオートメーションのロボットが出ています。 職人の仕事であった整形外科医にも機械化の波が押し...
整形外科学会に来ています。
ダビンチではなく、骨切りのオートメーションのロボットが出ています。
職人の仕事であった整形外科医にも機械化の波が押し寄せているということですね。
それ以外にも様々な検査や治療、手術のデバイスが沢山出ています。
こういった、高度機器を用いた医療というのは、先進国の医療水準の高さという国力維持の方策でありながら、一方で、不動産価格も含めて、医療機関の採算を逼迫しています。
患者さんのための仕事とはいえ、医師も雲や霞を喰って生きているわけではありません。
逆に、全てがお金持ちの道楽の崇高な奉仕業務になっては、優秀な人材がそろわないでしょう。
地方人口の偏りの原因として医療レベルや医療採算の偏りは確かにあって、そこをどう調整するか、行政による現実的な介入も問われます。
また、全ての医師がロボット医療と旧来の医療の両方に精通するというのは難しい部分もあって、そういうのをチームとしてどういう風に構築していくのか、血管内治療と外科治療なんかもそうですが、より多くの患者さんやメディカルスタッフの理解も含めて、適性な方向に向かっていけばと思います。
機械は目や手が不器用な医師のレベルや雑な仕事のレベルをすぐに追い抜きます。
しかし、対立因子としてではなく、補助因子として配置することを念頭に置けば余計な衝突も減るとは思います。
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