心療眼科医・若倉雅登のひとりごと
医療・健康・介護のコラム
救急現場でなくても治療に優先順位…医師を振り向かせるひと工夫とは
ある日、両目の視力が著しく低下したという50歳代の男性Fさんが、私の外来を受診してきました。
大学病院と総合病院で「遺伝性の視神経の病気」と診断されましたが、治療は行われませんでした。彼は「見放された」と感じたようです。
実は2か月ほど前に、Fさんは私の勤務先の病院を受診していました。当時担当した医師は検査した結果、「大学病院などで受けた診断に間違いはない」と伝えました。Fさんにとっては、それまでの受診と同じ対応だったため、「医師から見放された」という意識がさらに強まったようでした。
もちろん、私が診ても、診断結果は同じです。特効薬も出てきません。まず病気の成り立ちや、今後どのように進行していくのかということなどを丁寧に説明しました。さらに、「なぜ治療方法が確立していないのか」「今、治療方法の研究はどこまで進んでいるのか」についても、ざっと説明しました。
すると、Fさんはがっかりしていましたが、「ようやく理解できました」と話したのです。
ゆとりのない医療現場…「自分は見放された」
なぜ、Fさんは最初の段階で納得できなかったのでしょうか。
これまで再三お話ししていますが、現代日本の医療体制では、一人一人に十分時間をかけて説明するだけの時間的なゆとりが与えられていません。
そういう事態を放置しているのに、「2028年ごろ以降、医師が過剰になる」などとする厚労省の推計に対しては「ナンセンス」という思いを強くします。
ともかく、時間的なゆとりがない環境の下で、医師はどうしても優先順位をつけて診療を進めざるを得ません。
そこでは、重症度や緊急性が大いに関係します。重症であっても治療ができない場合、優先度は下がります。
「トリアージ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。大事故や大災害などで、治療が追い付かないほど多数の傷病者が出た時、対応に優先順位をつけることです。すでに死亡している人は、まず除外されます。軽症者や、治療しても助かる見込みのない人は優先順位が下がります。治療によって救済できる人を優先するのです。
多忙な大学病院などでは、それと似たようなことを日常的に行わざるをえないのです。Fさんの場合は「治療法がない」ため、優先順位が下がったわけです。しかし、本人にとっては、まさか「トリアージが行われている」とは思いもよらず、「自分は見放された」と感じたのです。
1 / 2
【関連記事】