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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

精神科医療と生活保護の日々…「働きたい」願いかなわず――小林エリコさんに聞く(中)

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精神科デイケア以外に行く所がない

――退院した後は、実家に戻ったんですね。

 「長いこと休んで、主治医の勧めで障害者手帳を取得して、正式に『精神障害者』になりました。そろそろ働こうと思ってアルバイトの面接に応募したら、前の仕事を辞めた理由を聞かれる。理由を言えなかったことも、うつ病で辞めたと正直に伝えたこともありましたが、すべて落とされました。もう人生の歯車は元に戻らないと思って、向精神薬を一気にのんで……」

――その繰り返しですね。やがて、精神科クリニックのデイケアに通うようになる。

 「やっと信頼できるドクターに会えたと思って、週3回、通いました。デイケアで病気の人たちとおしゃべりしたり、料理したり、ゲームしたり。でも、このまま一生、デイケアに通うのかと思うと不安になりました」

――それでも、独り暮らしを始めて、生活保護を利用するようになってからも、長く通うんですよね。

 「独り暮らしもクリニックの勧めで始めたのですが、何だか生活全般を管理されてる感じでした。デイケア以外に行く所がないから。衝撃的だったのは、通っているメンバーの中に、『この人とつきあっていいですか』とスタッフに質問している人がいて、そんなことも自分で考えられないんだ、とびっくりしました」

「クリニック幹部の高級車は、患者の苦しみのおかげ?」

――統合失調症という診断名を、そのクリニックで付けられたこともあったんですね。

 「その診断は絶対に間違いです。妄想も幻聴も、それらしい症状は全くなかったですから」

――精神科の診断は、医師の主観に左右されるし、同じ患者でも別の医療機関を受診すると全く違う診断名がつくなど、首をかしげることがありますね。小林さんの場合、やはり一応、うつ病でしょうか。しかし、いじめとか過労とか貧困とか、境遇が苦しかったから、うつ症状が出ても当たり前でしょう。根本的には、境遇を改善しないと治らない気がします。

 「そのクリニックでは統合失調症に、製薬会社の勧める高価なデポ剤(筋肉注射して体内にためておく薬)をバンバン使ってたんです。私は自分で服薬できるのに、それを使われた。クリニックから頼まれて、市民向けの講演会で体験を話したりしました」

――精神病への理解を広げる講演だけど、クリニックや薬の宣伝になっていたということですか?

 「そうですね。デイケアを担当するクリニックの幹部は、真っ赤な輸入車に乗っていました。お金を稼ぐのはいいけど、苦痛や絶望を抱えた患者が外来やデイケアに通っているおかげで、あの高級車があるのか、私はクリニックと仲良くして、薬をほめたたえて一生を過ごすのかと思うと、また大量に薬をのんで……」

――そうやって、また自殺未遂した時は、デイケアに来ちゃダメと言われたそうですね。

 「裏切ったと言われて出入り禁止。つらい状態に塩を塗るような……。デイケアでは、スタッフに好かれているか嫌われているかが大事で、私は嫌われていたと思います」

――精神科のデイケアは、ソーシャルワーカー(精神保健福祉士)か、作業療法士が中心のことが多いんですが、福祉職のソーシャルワーカーがそんな対応をしたんですか?

 「ソーシャルワーカー? デイケアにはいなくて、生活保護の申請を手伝ってくれた時以外は、面談する機会もなかったですね。そこのデイケアは看護師が中心でした」

――ちょっと変わった運営かもしれませんね。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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