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医療・健康・介護のコラム

第2部[転勤](2)夫に辞令 続く別居

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 共に働くことはできても、共に暮らすことが難しい家族は多い。

 兵庫県の会社員の女性(36)は、長女(4)と生後半年の次女と3人で暮らす。別の会社に勤める夫と結婚し、2013年に長女が生まれたが、1か月後、夫に東京への異動辞令が出た。

 「子どもが生まれるので今年は動かさないでほしい」。夫は上司に希望を伝えていただけに、夫婦のショックは大きかった。2人とも転勤のある仕事だが、「子どもが幼い間は配慮してくれるだろう、と甘く考えていた」と女性は言う。

 女性が自分の会社に相談すると、「東京に赴任させることは検討できるが、夫がまた転勤した場合、次の赴任先まで付いていかせられるかはわからない」との返事だった。保活激戦区の東京で、保育園に入れる保証もない。迷った末、「頼る人もいない東京へ行くのはリスクが高い」と断念した。夫はその後も関西に戻れるよう希望したが、2年後、今度は東京から中国地方に転勤になった。

 女性は午前4時に起きて仕事の資料の準備や家事をし、午後7時頃に保育園にお迎えへ。日曜と水曜の夜にまとめて作っておいた副菜を解凍し、晩ご飯の準備をする。業務が忙しかったり、子どもが熱を出したりした時には、近くの実家の助けで乗り切る。

 夫とは週末にインターネットの無料テレビ電話で会話し、スマートフォンのアプリで保育園の行事予定などを共有。夫が戻ってきた時には、あえて娘2人を任せて出かけ、子育てに関われるよう工夫する。

 けれど、子どもの成長は早い。「会う度に『大きくなったね』という夫を見ると、かわいそうになる」。最近は、週末に帰省した夫が赴任先に戻る時、長女がぼろぼろと涙をこぼす。

 「『この先どうする?』と夫婦で話をするけど、一緒に暮らすには夫が転勤のない会社に転職するか、私が辞めるしかない。結局、結論は出ないんです」

第2部[転勤](2)夫に辞令 続く別居

 総務省の就業構造基本調査によると、12年の単身赴任者はおよそ99万人(男性80万人、女性19万人)。労働政策研究・研修機構の調査(16年)では、既婚者が単身赴任を選んだ理由(複数回答)として「持ち家があった」(62%)、「子の就学・受験」(53%)に続き、「配偶者が働いていた」(38%)が多かった。

子ども、仕事…「いま何を優先すべきかが難しい」

 国家公務員の男性(34)は昨年7月、大阪から東京に赴任した。転勤自体は「本庁で働く経験を一度は積んだ方がいいだろう」と前向きに受け止めたが、共働きの妻(37)は仕事のため大阪に残った。

 中小企業で正社員として働く妻は、「夫と話していると『早く東京に行ってあげないと』と思い、職場にいると『働くって楽しいな』と思う。一緒に暮らしたい気持ちと、仕事を辞めたくない気持ちが同時にある」と言う。

 一方、当初はすぐに退職して付いてきてほしいと思った男性も、最近は迷いがあるという。「必要とされ、やりがいのある仕事を辞めたくない妻の気持ちはよくわかる。でも離れていたら、子どももなかなかできない」と語る。2人とも「いま一番何を優先すべきかが難しい」と複雑な気持ちをのぞかせる。

■見通し立たず

 「共働きが多数派となった今、『夫が働き、妻は専業主婦』というモデルを前提とした従来の転勤制度は、運用が困難になっている」。法政大教授(人的資源管理論)の武石恵美子さんは、そう指摘する。特に、夫も妻も転勤の可能性がある場合、互いが「いつ、どこに、何年行くか」分からないリスクを抱えることになり、将来の生活の見通しが立てられない。

 配偶者の赴任先の地域に異動させたり、同行のため一定期間の休職を認めたりする制度を設ける企業もあるが、導入はまだ一部だ。赴任期間や次の異動先が明示されない状況では、制度を利用できる人も限られる。武石さんは「転勤の目的があいまいなまま、会社側の都合で社員を動かすのではなく、本人の希望や事情をより考慮した制度に変えていかなければならない」と話している。

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 〒530・8551読売新聞大阪本社生活教育部「共に働く」係へ。ファクス(06・6365・7521)、メール(seikatsu@yomiuri.com)でも受け付けます。ツイッターは https://twitter.com/o_yomi_life_edu

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結婚、出産後も働き続ける女性が増える一方、育児との両立の難しさやキャリアアップを描きにくい現状はあまり変わりません。女性が真に活躍するために何が求められているのか。現代の「共働き事情」を描きます。

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