文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

性別適合手術、保険適用されたはずなのに…ホルモン治療受けると対象外に

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック
性別適合手術、保険適用されたはずなのに…ホルモン治療受けると対象外に
id=20180515-027-OYTEI50017,rev=6,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

 体と心の性が一致しない性同一性障害(GID)の人に対する性別適合手術が4月、保険適用された。しかし、自由診療であるホルモン療法を受けていると手術も保険が利かず、使い勝手は良くない。体が女性で心は男性(FTM)の北陸地方のAさん(21)も、ぬか喜びした一人。結局自費で乳房切除の手術を行い、「もっと多くの当事者に役立つ制度になってほしい」と願っている。(竹井陽平)

 昨年8月に男性ホルモンの注射を始めたAさん。同年11月、性別適合手術が保険適用されるとのニュースに、「よし。まずはおっぱいを取ろう」と喜んだ。

 早速、山梨大学病院(山梨県中央市)で手術を予約。約70万円の費用が約20万円に抑えられる計算だった。

 ところが国は今年3月、ホルモン治療を受けた場合は手術も全額自己負担になるとの見解を発表した。

 実は男性ホルモン剤も女性ホルモン剤も、GIDの治療効果に関するデータ不足で保険診療として認められていない。医療保険制度では、保険診療と自由診療を一緒に行うことはできないという原則があるため、ホルモン治療を受けた時点で、その後の手術もすべて保険が利かなくなる。

 落胆したAさんだったが、性別に違和感を抱えたまま生活を続けるのはもう耐えられないと、借金をして費用を工面。4月20日に同病院特任准教授の百沢明さんの手術を受けた。

 「肩が軽くなった。夏もTシャツで外出できる」と笑顔を見せるが、「僕は間に合わなかったけれど、もっと使いやすい制度にしてほしい。経済的に苦労している仲間も多い」と話す。

ホルモン療法は治療の基本

 実は、GID治療でホルモン療法は非常に重要だ。性ホルモンを分泌する卵巣や精巣の摘出後、体質的にホルモン剤が投与できない場合、更年期障害のような症状に襲われて取り返しがつかなくなるからだ。そのため、生殖器を摘出する前に、望む性のホルモンを投与して、体に合うかどうかを確認することは治療の基本になっている。

 保険の恩恵を受けられるのは、ホルモン分泌とは直接関係ない乳房切除を望んでいるFTMの人で、ホルモン療法を受けていないケースに限られる。

 4月6日に岡山大学病院(岡山市)で、近畿地方の20歳代の会社員Bさんに行われた乳房切除手術が保険適用の第1例になった。

条件緩和目指す

 今回の保険適用に合わせてGID学会は、手がけた手術の件数などで医療機関の認定制度をスタート。事実上、この施設認定が保険適用の条件となっている。

 現在、山梨大学病院、岡山大学病院など6施設が認定施設に登録済みか登録予定で、Bさん同様の手術が約20件予定されている。

 GID学会理事長で岡山大学教授の中塚幹也さんは今回の保険適用を「宿願がかない、大きな一歩」と歓迎する。10年ほど前からGID治療の保険適用を再三再四、国に求めてきた。

 ただ、現状の使い勝手の悪さも痛感。ホルモン療法については、臨床試験を省略して迅速に保険適用ができる「公知申請」制度の利用を検討中で、そのために必要となる海外での利用実績のデータや研究論文の収集に力を注いでいる。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事