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認知症と就労(上)若年性 業務覚えられず

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認知症と就労(上)若年性 業務覚えられず

若年性認知症支援コーディネーターの松本さん(右)に近況を語る埼玉県の男性

 認知症は高齢者だけではなく、働き盛りの世代でも発症する。65歳未満の「若年性認知症」の場合、「仕事が続けられるか」と悩み、休職や退職をせざるを得ない人が多い。認知症と就労について2回にわたって考える。

 「自分がどこで、どんな仕事をしているのか一切思い出せなかった」。埼玉県の男性(41)は昨年12月のある朝の出来事を振り返る。心配になって受診すると、アルツハイマー型認知症と診断された。40歳での発症に、「本当に自分のことなのだろうか」と実感がわかなかった。

 男性は、土地家屋調査を行う民間法人の職員として、登記に必要な測量などに携わっていた。変調は昨年11月頃からあった。コピーを頼まれて書類を渡された直後に、「何をするんでしたっけ」と同僚に尋ねた。「おかしいぞ」と言われたが、「疲れているからだろう」と、深刻に受け止めなかった。

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 日常生活には不自由を感じない。だが、仕事に支障が生じた。コンピューター利用設計(CAD)での作図の手順を、何度説明されても覚えられない。業務の指示が理解できず、思っていることをうまく言葉にできないこともあった。

 受診の結果を職場に報告すると、上司は戸惑った様子だったが、業務内容を変えてくれた。データの打ち込みや文書作成など比較的単純な作業を任された。

 ミスしないようによく見直した。それでも同僚が点検すると、間違いが見つかる。簡単な書類1枚を仕上げるのに1時間もかかった。通常2人で行う測量に、もう1人が付き添ってくれるなど、職場は親身にサポートしてくれたが、「自分は何の役にも立っていない」と、いづらさが募った。

 大きなミスが追い打ちをかけた。土地の面積を1けた間違えて書類に記してしまった。「このまま働き続けていたら、取り返しがつかないことになる」と怖くなり、今年3月から休職している。

 建設会社や自動車製造工場の勤務を経て、昨年9月、今の職場に就職したばかりだった。念願だった仕事で、土地家屋調査士の資格取得を目指し勉強もしていた。

 男性は独身。「これから収入源をどうするかが一番心配。やりがいがあるので、再び働きたい」と語る。

 不安は尽きないが、心強い支援者もいる。埼玉県が配置している若年性認知症支援コーディネーターで看護師の松本由美子さん(50)だ。

 男性は今年2月、県の認知症相談窓口を訪問し、松本さんを紹介された。「退職するしかない」と思い詰めていた男性に、松本さんは「休職して今後のことを考えてみては」とアドバイス。職場に休職の申し入れもしてくれた。松本さんは「今の仕事を続けるのか、新しい仕事を探すのか、症状や能力をふまえながら、男性が納得して選択できるよう助言したい」と話す。

  <若年性認知症支援コーディネーター>  認知症の本人や家族、勤務先からの相談に応じ、病院やハローワークなどと連携して就労や生活のサポートをする専門職。国の呼びかけで、ほぼ全ての都道府県が1~9人を配置している。精神保健福祉士や看護師、社会福祉士などが担っている。

自ら退職7割 家計苦しく

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 認知症介護研究・研修 大府おおぶ センター(愛知県大府市)の2014年の調査によると、若年性認知症を発症した時点で働いていた人(1411人)のうち、定年前に自ら退職したのは996人(71%)、解雇されたのは119人(8%)。就労中の人は161人(11%)にとどまり、うち49人は休職中だった。

 本人や家族に調査できた383人のうち、59%が発症を機に世帯収入が減ったと回答。家計の状況が「とても苦しい」「やや苦しい」と答えたのは計40%だった。

 同センターの 小長谷こながや 陽子研究部長は「症状が徐々に進行し、できないことが多くなっていくので、仕事を辞めざるを得ないのが実態だ」と話す。

 厚生労働省の研究班の推計では、若年性認知症の人は全国で約3万7800人。企業など雇う側は認知症を理解し、可能な業務を見極めて、その人に合った働き方を考える必要がある。

 (野口博文)

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