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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

心の病気と貧困…苦しみの連鎖を抜け出すには――小林エリコさんに聞く(上)

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働いても働いても苦しい生活…死ぬことが「希望」に

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――働き始めて5か月ほどたって、精神科の薬を大量にのんで、自殺を図ってしまうんですね。大きな原因は過労でしょうか?

 「それもあるけど、給料が安かった。仕事はどんどん増えるのに残業代が出ない。出るはずのボーナスが出ない。社会保険にも加入していない。最低限の生活で、買える肉は鶏の胸肉だけ。貯金の残高が数千円になって、心の休まる時がない。眠れない。出口がない。その苦しさがこの先、ずっと変わらない気がしたんです。楽になる方法を探すうちに、今回の雑誌が校了したら死のう、と決めた。死ぬと決めたら、気持ちがスッキリした。校了が近づいたら、もう死ねる、もう死ねると思って……」

――これまでの過労自殺のケースを見ても、本人は、つらければ仕事を辞めればいいという発想にはならないんですよね。責任感が強いからでしょうか、視野が狭くなってしまうんでしょうか?

 「仕事を途中で投げ出すことは考えませんでした。迷惑はかけたくない。死んだら楽になれると思うようになったら、ほかの選択肢は頭に浮かばなかったですね」

――自殺のサインに気づこう、と政府のキャンペーンは強調しています。しかし、うつ状態の人がゆううつな表情をしているとは限らないし、人と話す時は愛想笑いをしますよね。とても苦しい状態ならSOSを出すかもしれないけど、死ぬ決心をした人は、気分が晴れ晴れするようです。その段階になると、気づくのは難しいでしょう。その後も小林さんは何回も自殺を図るんですが、死に対する抵抗感やためらいはなかったんですか?

 「未遂は全部で3回、いや4回ですね。死のうかどうしようかとあまり悩んでない。怖いというより、死ぬことが希望になったんです。つらい状態がなくなると思って……」

SOSに傾聴ばかりでよいのか

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――なぜいつも、向精神薬を大量にのむという手段だったんでしょうか?

 「のみ忘れた精神科の薬はいつも手元にたくさんあったし、飛び降りや鉄道で死ぬのは、人に迷惑をかけるので……」

――苦しい時に、消え去りたいという考えは、私もしばしば頭をよぎりますが、家族のことを思うとブレーキがかかります。小林さんは、SOSを出したことはありますか?

 「友達と会ったら、明るい顔で楽しい話をします。『つらい』って電話したことは何回かあるけど、友達のほうはどう対応していいかわからず、私のことを『困った人』として、距離を取られるようになって……。高校生の時は、自殺防止の電話相談をよく利用してたんですが、話を聴いてくれるだけなので、不全感が残ります。しばらく前に、SNSのアプリを使った相談窓口に連絡したこともあるけど、そこも傾聴。私の言ったことをオウム返しに言うだけですね」

――話を聴いて共感はしてくれるけど、苦しみの原因は解決しないわけですね。もう少し何があったら、いいんでしょうか。

 「どういうことで困っているのか、突っ込んで尋ねてほしいですね。オウム返しの傾聴だけでなくて、状況を詳しく知って、どうすれば解決するのかを一緒に考えてほしい」

――死にたいという気持ちは、このごろは、なくなっていますか?

 「今は、精神障害者関係のNPO法人で働いていて、収入もあります。マンガも描いています。最近は、死ななくてよかったかなと思うようになりました」(原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)

 こばやし・えりこ
 1977年生まれ、茨城県出身。現在も精神科に通院しながらNPO法人で働く。ミニコミ紙「精神病新聞」を発行し、漫画家としても活動。いじめを受けた子ども時代を描いた漫画「宮崎駿に人生を壊された女」をネットで発表し、話題になる。『この地獄を生きるのだ』は、同人誌即売会で販売した手記を大幅に加筆修正した。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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