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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち 松永正訓

医療・健康・介護のコラム

[インタビュー]18トリソミーの子を持つ親から②――障害と向き合う子育て だからこそ得られる喜びがある

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 前回に続き、写真を通じて染色体に異常がある18トリソミーの子どもたちを知ってもらう会「Team18」の代表で、現在6歳になる心咲(みさき)ちゃんの父親、岸本太一さんに聞きました。

よく知る医師のチームで心臓の根治手術

――心咲ちゃんは退院し、自宅で暮らせるようになりました。次の段階として、心臓の根治手術が必要になりますね。

 1歳になって以降、日常的にマスク式の呼吸器を使用することで呼吸状態が良くなり、そのおかげで体重が順調に増えました。肺動脈バンディング手術後に「根治術をする体重の目安は10kg」と言われていて、1歳5か月頃には体重が7.5kgに達して健康状態も良かったことから、手術をしたい旨を主治医に相談しました。

【名畑文巨のまなざし】
ミャンマーの赤ちゃん(その3) 初めて目にしたダウン症の赤ちゃんに、どう接していいか分からないのか、ご近所の方々には緊張した空気が流れていました。そうしたなか、一人のご婦人が赤ちゃんの手を取ってあやし出してくれました。それから緊張の糸がほぐれ、皆が代わる代わるあやしてくれて和やかムードに。お母さんも安堵(あんど)の表情に変わりました。ミャンマーの人たちの優しい心遣いを感じました。ミャンマー・ヤンゴン市にて

 18トリソミーの子の心臓の根治術は、心咲の病院ではやったことがありませんでした。先生からは、「たぶん、心咲ちゃんなら大丈夫だと思う。例えば1年先、手術ができるかどうかは読めない。でも、今の状態ならできると思う。やるなら状態の良い今だと思う。まずは心臓カテーテル検査をして、肺高血圧の状態などもしっかり見てから判断しつつ、手術については関係の先生と話を詰めていく」との返事をもらいました。

――手術をするのは小児心臓外科医ですし、麻酔科医の協力も必要です。

 前例がなかったので、主治医の先生が心臓外科医と麻酔科医を説得することから始まりました。合同カンファレンスには関係する先生方に集まってもらい、私たち親も病院に出向いて、心咲の日常生活をDVDにまとめた映像を見ていただきました。「手術をすることで、この元気な姿が続く」ということを感じていただきました。

 執刀医は、バンディング手術の時と同じ心臓外科医で、麻酔科医も同じ先生。ありがたいことに、皆、心咲を知っているメンバーでした。だからこそやれる、というのがあったのかもしれません。

初めて口から牛乳を飲んだときの笑顔

――その後、どんどん成長していくのですね。食事はどうでした?

 心咲は生まれてから、口から食事をとることができませんでした。そのため、3歳までは口からチューブが入っていて、そこから栄養剤や水分を注入していました。しかし、口に入っているチューブを嫌がって、自分で抜いてしまう頻度が増えてきました。

 私も試しに自分の口からチューブを入れてみて、すごく違和感があることが分かりました。いつも笑顔を見せてくれる心咲に、さらに笑顔を増やしてあげたいと思い、胃に直接栄養を送る「胃ろう」を作ることにしました。

――口からチューブがなくなり、すっきりしましたか?

 胃ろうの手術後、チューブがなくなった口から牛乳を飲んだときの心咲の笑顔や喜ぶ声に接して、食べることの幸せを教わりました。

 私たちは当たり前のようにものを食べますが、のどを通ることで味や香りや温度を感じています。それを初めて経験した喜びを、心咲は素直に表現したのだと思います。

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いのちは輝く~障害・病気と生きる子どもたち

 生まれてくる子どもに重い障害があるとわかったとき、家族はどう向き合えばいいのか。大人たちの選択が、子どもの生きる力を支えてくれないことも、現実にはある。命の尊厳に対し、他者が線を引くことは許されるのだろうか? 小児医療の現場でその答えを探し続ける医師と、障害のある子どもたちに寄り添ってきた写真家が、小さな命の重さと輝きを伝えます。

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松永正訓(まつなが・ただし)

1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。

『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。2018年9月、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)を出版。

ブログは 歴史は必ず進歩する!

名畑文巨(なばた・ふみお)

大阪府生まれ。外資系子どもポートレートスタジオなどで、長年にわたり子ども撮影に携わる。その後、作家活動に入り、2009年、金魚すくいと子どもをテーマにした作品「バトル・オブ・ナツヤスミ」でAPAアワード文部科学大臣賞受賞。近年は障害のある子どもの撮影を手がける。世界の障害児を取材する「 世界の障害のある子どもたちの写真展 」プロジェクトを開始し、18年5月にロンドンにて写真展を開催。大阪府池田市在住。

ホームページは 写真家名畑文巨の子ども写真の世界

名畑文巨ロンドン展報告

ギャラリー【名畑文巨のまなざし】

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