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[介護のいろは](5)訪問介護って何?
介護が必要になった人が自宅で受けられる介護保険サービスの一つに「訪問介護」があります。ホームヘルパーが食事や入浴の介助をしたり、買い物や掃除をしたりして、暮らしの自立を手助けしてくれます。(辻阪光平)
暮らしの自立手助け
■食事や着替え
「おはようさん。今日はクリームパンやな」。ベッドで朝食をとる大阪府東大阪市の田渕喜美子さん(84)の顔を、ヘルパーの桜井一恵さん(75)がのぞき込み、ジュースを口元に運んだ。田渕さんはストローで吸い、「サンキュー」と元気な声を上げた。
田渕さんは「要介護5」。脱水症状で1週間入院した後、寝たきりになり、昨年3月から訪問介護の利用を始めた。現在は桜井さんが所属する「エルフ」(大阪市)など3事業所のヘルパーに訪問してもらい、日曜を除く週6日、朝や午後の1~2回、利用している。
朝食後、桜井さんはタオルで田渕さんの体を拭き、着替えの介助を行い、薬の飲み忘れがないかも確認している。家事は夫の清さん(87)が行い、朝も野菜と果物の特製ジュースを作っているが、「私一人で妻の着替えは難しく、とても助かる」と話す。
■ケアマネとプラン作成
訪問介護は要介護1~5の人が利用できる。主なサービス内容は「身体介護」と「生活援助」、「通院時などの車の乗降介助」の三つがある。どんな支援を受けるかは、「日常生活で何に困っているか」「どう暮らしたいか」をケアマネジャーと話し合い、ケアプランを作成して決める。
身体介護は、食事やトイレの介助、爪切りなど体に直接触れる介助をイメージすればわかりやすい。研修を積んだ職員がいる事業所は、たんの吸引や、チューブで胃などに栄養剤を送る経管栄養も行う。
生活援助は、本人や家族に代わって、ヘルパーが家事を行う。食事の支度や買い物、洗濯など幅広いが、支援の対象は、本人や家族で行うのが難しいことに限られる。田渕さんの場合、清さんが行っている料理や掃除については、支援を受けられない。
介護サービスは原則、所得に応じて費用の1~2割(8月からは1~3割)の負担で利用できる。訪問介護の負担額は支援の内容や訪問時間などで異なる。国の基準(1割負担)は、20分未満の身体介護が1回165円、20分~45分未満の生活援助が181円――などだ。
毎回30分程度の身体介護を受ける田渕さんは月に約1万4000円を支払っている。
訪問介護の目的は「その人らしい暮らしを支えること」だ。エルフの大阪エリア在宅事業部長、池田清美さん(59)は「本人の力を損なわず、できることが一つでも増えるよう、支援しています」と話す。
民間の家事支援サービスとは趣旨が異なるため、ヘルパーに何でも頼めるわけではない。日頃の家事の範囲を超える大掃除や、同居する家族のための買い物などは制度の対象外だ。
「誰かに頼みたい場合は、家事支援ボランティアなど介護保険を使わずに利用できるサービスが地域にないか、ヘルパーやケアマネジャーに尋ねてください」と池田さんはアドバイスしている。
[専門家に聞く]本音の言える関係築いて
ヘルパーとはどう付き合えばいいのだろうか。大阪府内の訪問介護事業所などでつくる「日本ホームヘルパー協会おおさか」の中田哲人さんに聞いた。
他人を家に上げるのに抵抗がある人もいるでしょうが、ヘルパーには守秘義務が課せられています。訪問先の様子をみだりに他人に話すことはないので安心してください。
一人暮らしだと、家族よりもヘルパーと会う方が多くなる場合があります。「いつもと体の動きが違う」「ろれつが回らない」などの異変があれば、いち早く気づいてくれます。わずかな時間でも、ヘルパーと雑談を楽しむことは大切です。
4月から、身体介護に含まれる「自立生活支援のための見守り的援助」が明確化されました。ヘルパーが利用者に声を掛けながら、一緒に掃除をしたり、衣類を整理したりするものです。利用者の心身の状態がより良くなることを目的としており、活用が進むと思われます。
ただ、ヘルパーも最初から、利用者の意向に完璧に沿う介助をするのは難しいです。少なくとも1か月は様子を見て、本音が言える信頼関係を築いてください。料理の味や掃除手順の違いなど、気になる点があれば遠慮なく事業所に伝えましょう。
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