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解説

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[老いをどこで]かなわぬ思い(上)「在宅」の現実 介護者苦悩

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認知症の母 息子一人で背負う

[老いをどこで]かなわぬ思い(上)「在宅」の現実 介護者苦悩

日中、デイサービスで過ごす男性の母親(手前左から2人目)。ケアマネジャーの塩川さん(右)に「息子はよく介護してくれている」と話す(東京都新宿区で)

 高齢者にとって、住み慣れた家で最期まで暮らし続けられるのは理想だろう。ただ、認知症が進んだ高齢者を一人で支えるのは容易ではない。年間連載「老いをどこで」第1部のテーマは「家での暮らし」。今回は理想と現実のはざまで悩む人たちの現状を追った。

 ダン、ダン、ダン。「今日も始まったか……」。午前2時。東京都新宿区の自営業の男性(50)は、リビングの床をかかとで踏み鳴らす音で目を覚ます。足音の主は、同居する認知症の母親(82)。夜中の行動は大体いつも同じだ。冷蔵庫を開け、ジュースを飲み、お菓子を食べる。トイレに行く。母親は短い睡眠を挟みながら、朝5時頃まで何度も繰り返す。「これでは眠れない」

 「母は不良だった自分を見放さなかった。だから、僕のことがわからなくなるまでは頑張ってみたい」。決意して始めた息子一人の介護生活はもう4年になる。初めは、姉も手助けしてくれたが、すぐに来なくなった。男性は独身。「ほとんどしたことがなかった」という洗濯や食事の用意も負担だ。ストレスに寝不足が重なり、顔や首の帯状 疱疹ほうしん に悩まされている。

 男性の仕事は、中古の時計やバッグを取り扱うリサイクル業。ただ、介護で思うように仕事ができない日も多い。商品の買い取りで夕方以降に顧客の自宅に出向くことが多かったが、介護が始まってからは、「夕食の支度もあり、母のそばを離れられない」ためだ。

 母が知人の保証人になって背負った借金の返済もあり、介護に回せるお金は、「月10万円がぎりぎり」。介護保険で短期宿泊ができる施設を月12泊程度使う。残りの日はデイサービスに通うが、預かるのは夕方まで。夜間は男性だけが介護を担う。

 月10万円あれば特別養護老人ホームに入れるが、原則として介護の必要性が高い「要介護3」以上が対象。男性の母は要介護2だ。認知症の人が暮らすグループホームもあるが、都内では月20万円弱の費用がかかり、無理だという。

 在宅介護にいよいよ限界が来たら、どうするのか。「費用が安い都外の有料老人ホームは選択肢の一つなのですが……」。男性の母親の介護計画を立てるケアマネジャーの塩川隆史さん(51)は話す。ただ、母親は「家を離れたくない。老人ホームに入れと言われたらショック」と話す。塩川さんは「判断はとても難しい」と頭を抱える。

 自室のごみ箱に排尿するなど、母の状態は悪化している。「いっそ、寝たきりになってくれたらどんなに楽か」。使命感と意地が日々の介護を支えているという男性の頭には最近、そんな思いもよぎる。

生涯未婚率、男女ともに上昇

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 超高齢社会を迎え、息子や娘が親を一人で介護するケースは増えていくとみられる。

 介護保険を利用する人の割合が大幅に増えるのが75歳以降だが、2025年には、その75歳以上が人口のおよそ5人に1人を占めるようになる。団塊世代の全員が75歳以上になるからだ。その頃には、認知症の人も約730万人に上ると推計されている。

 支える側の家族も姿を変えつつある。例えば、男性のように、50歳まで一度も結婚しない人の割合を示す「生涯未婚率」は上昇。1990年に男性が約6%、女性は約4%だったが、15年には男性が約23%、女性が約14%になった。

  [記者考]負担の限界点は

 紹介した男性の置かれた状況を、ひとごとに思える人は一体どれくらいいるだろう。

 「最期まで家で面倒を見たい」は確かに理想だが、「もう、遠くの施設でもいい。預けたい」と、男性が揺れる思いを明かすように、現実はそう簡単ではない。

 高齢者本人の願いと、支える家族の負担の限界点をどう見極めていくのか。取材を通じ、その答えを出すことの難しさを改めて考えさせられた。

 (板垣茂良)

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