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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

男女とも危険にさらされるHPV

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男性にもワクチン接種を推奨するアメリカ

 そこで、ワクチンの出番です。

 たとえば、B型肝炎ウイルスは、肝炎のみならず肝硬変や肝臓がんの原因ですが、ワクチンで予防できます。

 HPVワクチンも、いくつか開発されており、尖圭コンジローマ、子宮頸がんの前段階、前がん病変を予防します。B型肝炎ワクチン同様、がんの前提となる感染を防ぐことで、子宮頸がんなどのがんも予防できるでしょう。

 多くの国では、尖圭コンジローマと子宮頸がんの被害を減らそうと、HPVワクチンの接種を強く推奨しています。アメリカなどでは、女性は13~26歳、男性は13~21歳、男性同性愛者は26歳までに――という具合に、男性にも積極的な接種を呼びかけています。

 日本でも、HPVワクチン(「子宮頸がんワクチン」と呼ばれる)は、定期接種に組み込まれています。しかし、接種後の副作用リスクを懸念した厚労省が接種の勧奨をやめ、接種率は激減しました。

 確かに、HPVワクチンは接種部位の痛みなどが他のワクチンよりも出やすいのが特徴です。が、長期に症状を起こす副作用や、全身に起きる重篤な症状がHPVワクチン接種で 増えたりしない、という研究結果も発表されています。今年に入ってからはワクチン接種後の重篤な副作用も増加していなかったことが名古屋でのデータ解析で報告されました。

接種時期に柔軟さが欲しいワクチン政策

 厚労省は、HPVワクチンの積極的推奨を復活させるべきです。こうした健康問題を放置していては、行政の責務を果たせません。

 関連諸学会がこの問題の打開に消極的なのも、プロとしてどうかと思います。ワクチン接種をはっきり肯定しているのは日本産科婦人科学会だけで、ワクチンの専門家であるはずの感染症関連の学会やプライマリ―ケアの学会もこの問題には弱腰なままです。

 あらゆる医療行為同様、ワクチンの副作用もゼロではありません。まれではあっても、重篤な副作用は起こりえます。ワクチン接種後の強い痛みがトラウマになり、「身体化」と呼ばれる症状のきっかけになって長く苦しむ人もいるようです。

 そのため、ぼくはワクチンの接種時期にゆとりをもたせる方法を提案しています。

 日本の定期接種は接種時期の年齢幅があまりに限定されています 。しかし、健康や性、がんに対する理解の深さやリスクの高さは、人によって違います。10代で接種した方がよい人もいれば、成人後で十分間に合う人もいます。アメリカでは、推奨年齢外でも接種を受けられるよう、仕組みにゆとりがあります。「追いつく」と言う意味の「キャッチアップ」接種と呼ばれます。日本でも定期接種にキャッチアップの仕組みを取り入れるべきです。

 ところで、「予防接種法」における予防接種は「義務」ではないことをご存じですか? 戦後間もなく作られた「予防接種法」は当時義務接種でしたが、現在は人権などにも配慮して「義務」ではなくなっているのです。予防接種は、国がぼくたちの健康を守るために提供してくれる大事な「権利」。その権利を自分や家族のために積極的に活用すべきなのです。(感染症内科医 岩田健太郎) 

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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