安心の設計
医療・健康・介護のニュース・解説
年金にかかる所得税…申告書提出し税額圧縮
高齢者の暮らしを支える年金も、一定額以上を受け取ると所得税がかかる。日本年金機構から毎年届く「扶養親族等申告書」を提出すれば、天引きされる税額を圧縮できる。忘れずに手続きしたい。
広島県内の主婦(68)は2月、夫の口座に振り込まれた年金が少ないと感じた。2か月分で約37万円の年金から所得税が約2万8000円も引かれていた。
「こんなに税金が多いはずがない」と機構に問い合わせると、提出した扶養親族等申告書がまだ処理されていなかったことが判明。その後、4月振り込みの年金では税額が約1500円に修正され、2月に引かれた税も大部分が戻った。
この申告書を巡っては3月、機構から委託された業者によるデータ入力ミスや処理の遅れが原因で、多くの年金受給者の税額が高めに計算された問題が明らかになった。主婦の夫のケースのように提出していれば最終的に損はしないが、機構の発表では、未提出のまま高い税額を源泉徴収され続けている人が72万8000人もいる。社会保険労務士の清水典子さんは「書き方が分かりにくい書類のため、出せなかった人も多いのではないか」と話す。
申告書を提出しないと、所得税額の計算で不利になる。基礎控除や配偶者控除、公的年金等控除などが適用されず、課税対象額が大きくなってしまう上、税率も約5%ではなく、2倍の約10%で計算される。
「扶養親族等申告書」という紛らわしい名称にも要注意。扶養する家族がいない人も、提出しないと基礎控除などが適用されず、税率も高くなるためだ。
機構から申告書が送られてくるのは、年金額が65歳以上で年158万円以上、64歳以下で年108万円以上の人だ。この金額未満の場合や、遺族年金、障害年金だと所得税はかからないので、送られてこない。届く人は受給者のおよそ4人に1人。以前は10月頃に届いたが、昨年から、8月下旬の発送に変わった。
提出しなかった場合も、確定申告すれば払い過ぎた税金を取り戻せる。年間の医療費が高額になるケースなど、毎年、確定申告している人だと、扶養親族等申告書を提出する必要はないと感じるかもしれない。
ただ、清水さんは「2か月に1度の年金額が1万~2万円少ないことで、生活に響くケースもあると思う。本来もらえる金額を最初から受け取るためにも、放置せずに、毎年必ず提出してほしい」と話す。
[アドバイザー]清水典子さん
東京都出身。「オフィス・椿」所長。社会保険労務士、年金アドバイザー。セミナー講師などとして、年金制度のわかりやすい解説に取り組んでいる。監修を務めた「図解 いちばん親切な年金の本 18―19年版」(ナツメ社)が5月中旬に刊行予定。
年金事務所に相談を
日本年金機構は4月、2018年分の申告書を一度も提出していない72万8000人と、記入に不備があるなどして返送されたまま未提出となっている18万3000人の計約91万人に、様式を分かりやすく見直した申告書を改めて送った。所得税が余分に天引きされている人は、4月中に提出すれば、6月の年金支給時に税額が修正され、払いすぎた税も還付される。間に合わなくても、次回以降の支給日に調整される。
ただ、配偶者が扶養の対象になるかどうかチェックする必要があるなど、記入上の難しさは、以前のものと大きくは変わらない。
清水さんは、別紙の記入方法の説明を読んでもわからない場合は、最寄りの年金事務所に相談に行くことを勧めている。本人確認書類のほか、家族など代理人が行く場合には委任状も必要になる。二度手間にならないよう、事前に必要書類を問い合わせておきたい。相談の予約も含め、ねんきんダイヤル(0570・05・1165、03・6700・1165)で対応している。
清水さんは「単身者や高齢夫婦だけでは記入に迷う場合もある。家族など身近な人も気にかけてあげてほしい」と助言している。
(滝沢康弘)
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。