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精神科医・内田直樹の往診カルテ

医療・健康・介護のコラム

隠れたうつ病が、認知症を見誤らせる

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 昨年9月、福岡県のAさん(82歳)が、保育士のお孫さんに付き添われ、当院の「物忘れ外来」にやってきました。県内の農家に生まれ、お見合いでご主人と結婚しました。嫁ぎ先の大きな農家の仕事をこなしながら3人の子を育て、とにかくよく働いたそうです。現在は、近所に住むこのお孫さんの世話になっています。

 数年前から物忘れが悪化し、尿失禁をごまかしたり、長時間眠りっ放しだったり、食欲が落ちて体重が減ってきたりしたのに、かかりつけの内科医は「認知症だから仕方がない」と取り合ってくれない、とお孫さんが訴えました。

 診察時、Aさんは「歯を治療せんといかん。入れ歯が合っとらん」などと話し、どうやら私を歯科医と勘違いしていました。会話がかみ合わないため、認知症の代表的な評価スケール「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」(30点満点で、点数が低いほど認知機能障害が重い)を行うと、結果は8点。短期記憶や注意力の障害があり、その日の日時や、今いる場所もわからない状態でした。

急激に減る体重 しかし、おなかに異常はなく…

 お孫さんによると、昨年5月に自宅で転倒したAさんは、左大腿(たい)骨頸(けい)部を骨折。手術とリハビリのために入院した2か月間を境に、急激に認知症が進んだそうです。確かに、その年の3月のHDS-Rは23点だったのに、8月は14点へと急降下していました。食事の量もそれまでの2割ほどになり、3か月で体重が5キロも減少していました。家族の心配も当然です。

 かかりつけ医の紹介状には、「全身状態は落ち着いています」とありましたが、状態の変化が急なため、まず食欲増進効果も期待できる認知症治療薬(貼るタイプ)を処方しました。

 ところが、2週間後にはさらに食事量が減って体重が一層低下。自分では歩けなくなりました。すぐに総合病院でおなかのCTと胃カメラの検査を受けてもらいましたが、異常はありません。11月初めに、ご自宅を訪ねました。

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内田直樹(うちだ・なおき)

医療法人すずらん会たろうクリニック(福岡県福岡市東区)院長、精神科医、医学博士。1978年長崎県南島原市生まれ。2003年琉球大学医学部医学科卒業。福岡大学病院、福岡県立太宰府病院を経て、10年より福岡大医学部精神医学教室講師。福岡大病院で医局長、外来医長を務めた後、15年より現職。日本精神神経学会専門医・指導医、日本老年精神医学会専門医、NPO法人日本若手精神科医の会元理事長。在宅医療の普及を目指して「在宅医療ナビ」のサイト運営も行っている。編著に「認知症の人に寄り添う在宅医療」(クリエイツかもがわ)。

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