科学
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森田知事の手術で注目…「眼瞼けいれん」と「眼瞼のけいれん」は同じ病気?
4月13日、森田健作・千葉県知事がまぶたの手術を受けたという報道がありました。このニュースを巡り、同じ症状に悩む患者さんからの問い合わせが、専門医療機関に相次いでいるそうです。
ただ、誤解に基づく問い合わせも少なからずあるようです。
神経眼科が専門の井上眼科病院名誉院長・若倉雅登さんに、どんな誤解が混乱を招いているのか、解説してもらいました。
「眼瞼けいれんの手術を受けたい」問い合わせが次々
「知事のように
「眼瞼けいれんの根本的な治療はないと聞いていたけれど、知事は手術が成功したようだ。どういうことなのか」
ここ数日、私が勤務する井上眼科病院に、眼瞼けいれんの患者さんから、そんな問い合わせが次々と寄せられています。
森田健作・千葉県知事を巡るニュースの影響でしょう。
「眼瞼けいれんの症状があってまぶたの手術を受けた」と報じた社もあれば、「眼瞼けいれんを患って右目を手術した」と報じた社もあります。
県の発表内容は定かでありませんし、もちろん、知事の診察も担当していません。知事が患っている病気が何なのかはわかりません。
ただ、眼瞼けいれんの患者さんからの反響を通じ、多くの方が「眼瞼けいれん」という病気と、「眼瞼のけいれんが起きる別の病気」を混同していることがうかがえました。
「眼瞼けいれん」…脳の神経回路に不具合、治す方法はない
病名としての「眼瞼けいれん」と、症状としての「眼瞼のけいれん」は全く違います。
「眼瞼けいれん」という病気は、脳の神経回路の伝達の不具合で起きます。まぶたが開けにくくなったり、うまくまばたきできなくなったりします。ひどくなると、眼を閉じたまま開けられなくなります。通常は両側の目に起こります。
単に、けいれんするだけの病気ではありません。
私の勤務する病院でも年に千数百人の患者さんが受診します。
残念ながら、脳で起きている不具合を治す方法はなく、対処療法で症状を和らげるしかありません。
「眼瞼のけいれん」を起こす「顔面けいれん」…手術で治癒可能
一方、「眼瞼のけいれん」を起こす別の病気があります。代表的なものは「顔面けいれん」です。顔面神経というまぶたの動きをつかさどる神経が、血管に圧迫される病気です。その結果、顔面神経が勝手に興奮して、まぶたを閉じる筋肉がピクピクとけいれんして、眼が開けにくくなるのです。
進行すると、同じ顔面神経が関わる頬や口の回りの筋肉も勝手に動いてしまうので、「顔面けいれん」という病名がついています。通常は、左右ある顔面神経のいずれか一方に起こり、顔の半分に症状が出ます。このため、正確には「片側顔面けいれん」「半側顔面けいれん」といいます。
脳神経外科で、神経と血管の距離を離す手術をすれば、95%は治癒するとされています。ただ、術後はしばらくの安静が必要になります。
ここからはあくまで私の推測ですが、知事の症状は右目に起こっているようですし、正確には、「右の顔面けいれんによる眼瞼のけいれん」なのかもしれません。
いずれにせよ、眼瞼けいれんと顔面けいれんは病名も症状も似ており、治療としてボツリヌス注射が用いられるところも共通していることもあり、混同されやすいのでしょう。
でも、全く別の病気であることを理解していただきたいと思います。
若倉 雅登(わかくら まさと)
井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。専門は神経眼科、心療眼科。
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