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保育所に入れない(1)保活全滅「離職考えた」

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 「子どもの預け先が見つからず、離職が頭をよぎった」。東京都練馬区の男性(34)は、保育園に入るための「保活」を振り返る。

 夫婦ともに正社員。昨年3月に第1子が誕生した。昨年12月から育児休業を取得。今年1月に妻が職場復帰した。「所属部署で男性が育児休業を取るのは初めて。上司が『4月に戻るなら』と後押ししてくれた」

 しかし2月、区から「入所できない」という通知が届いた。1次選考で13施設に申し込んだが、どこにも入れなかった。2次選考も全滅。利用を申し込んだ認可外保育施設からは突然、「閉鎖する」との連絡が。子育てをしながら、他の認可外施設に空きがないか電話をかける日々を送った。

 3月中旬、区から「保育所に入れる」と連絡が来た。ただし利用は1年間限定。2次選考後も預け先が見つからない1歳児を対象に区が導入した「期間限定保育」だ。利用を即決した。

 男性は「問題が先送りされただけ。働きながら他の預け先を探さなければならない。預け先がなければ、夫婦どちらかが職を失ってしまう。こんな状況では父親の育休取得は進まない」と語る。

「1歳児預けられるなら、1年でも」

保育所に入れない(1)保活全滅「離職考えた」

1歳児クラスでは、利用期間に期限がある子どもと通常利用の子どもがほぼ半々だ(さいたま市の認可保育所「小鳩保育園南本町」で)

 3月、さいたま市の認可保育所「小鳩保育園南本町」。1歳児クラスの子どもたちが、お茶を飲んだり、着替えをしたりしていた。

 同園の新井夕貴園長(32)は「1歳児クラスは29人。そのうち15人は、最長2年間しか利用できないお子さんです」と説明する。当初予定していた1歳児と2歳児の保育室の仕切りを取り払い、1歳児の保育室にした。利用期限がある子も、そうでない子も、一緒に過ごす。

 同園では、電車に2駅乗って、子どもを預けてから、東京都内に通勤する親もいる。「子どもの預け先があるなら、どこでもいいから必要という切実な家庭もある」(新井園長)

期間限定保育 最後の頼み

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  ■「1~2年」型拡大

 ここ数年、待機児童対策として、利用できる期間を1~2年間に限った「期間限定保育」(定期保育)を行う自治体が増えている。認可保育施設の利用を申し込んでも入れず、他の預け先も見つからない待機児童のための、独自の取り組みだ。実施する多くの自治体が1歳児を対象としている。

 さいたま市は、新設された認可保育所で、利用希望の少ない4~5歳児の保育室や保育士を活用し、認可施設に申し込んでも入れなかった1歳児を最長2年間受け入れる取り組みを行っている。2014年度から、約180人を受け入れた。保育料は認可保育所と同額だ。

 1歳児だけを対象にする理由について、同市の担当者は「育児休業の取得後に保育を申し込む親が多い。このため1歳児の保育需要が集中し、正規の受け入れ枠が不足している」と語る。

 東京都文京区、中央区、仙台市なども、新設の認可保育施設の4~5歳児クラスなどの枠を活用し、1、2歳児を1~2年間限定で受け入れている。

 東京都練馬区は、認可保育施設の一時預かりの部屋を転用するなどして、最長1年間預かる保育を行う。

 東京都渋谷区は、待機児童を対象に、区立の認可外保育施設を7か所設置。既存の5施設のほか、2か所は新たに園舎を建てた。定員の約3割が1歳児向けだ。原則として入園した年度末まで利用できる。

 読売新聞の調査では、1次選考で入れなかった子どものうち、1歳児が全体の43%を占める。

 東京都は18年度、待機児童の期間限定保育を実施する新設の認可保育所に補助する制度を初めて実施する。期間限定保育はさらに増える可能性がある。

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  ■甘い需要見込み

 「保育園を考える親の会」の 普光院ふこういん 亜紀代表は「期間限定保育を利用する親は、働きながら、新たな預け先を見つけるために保活を続けなければならず、負担が大きい」と指摘する。そのうえで、「自治体はマンション開発などの情報を把握できるはずだが、保育のニーズ調査が大ざっぱで、必要な量の見込みが甘い。継続利用ができる認可保育所の整備に力を注ぐべきだ」と語る。

 大阪市や北九州市などは、国が15年4月に始めた「小規模保育所」の整備に力を注ぐ。待機児童が多い0~2歳児が対象で、マンションの一室や空き店舗などを活用できることから、認可保育所に比べ、開設しやすいためだ。

 横浜市副市長として待機児童対策に取り組んだ経験がある、甲南大学の前田正子教授は「利便性の良い施設に利用希望の偏りがあり、そうした場所では保育施設用の物件が見つかりにくい」と事情を話す。

 「待機児童の多い低年齢児に特化した保育施設を整備する際は、卒園後の受け皿を確保するため、幼稚園との連携なども含めた自治体の知恵が求められる。子どもに必要な安定した保育を提供できなければ本末転倒だ」と、前田教授は警鐘を鳴らす。

 保育を希望しても利用できない家庭は依然多い。共働き世帯の増加で保育需要が高まる一方、自治体は保育士や施設用地の確保に頭を悩ませる。家族だけで子どもを世話するのも限界だ。保育の現場から現状と課題を考える。

「低年齢」「駅近」 ニーズ偏り

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 読売新聞社が、認可保育施設への4月入所を前に実施したアンケート調査では、入所者の大半が決まる「1次選考」で入れなかった子どもが1000人以上いる自治体が20市区にのぼることが分かった。1次選考には認可保育施設の利用希望者が必ず申し込むため、保護者のニーズがはっきり示される。

 調査は2月28日から3月16日まで、東京23区と政令市、2017年4月1日時点の待機児童数(厚生労働省発表)が100人以上いた自治体の計87市区町村を対象に行った。

 それによると、入れなかった子どもの人数を非公開などとした9自治体を除く78自治体すべてで、1次選考で入れなかった子どもがいた。

 入れなかった割合は平均24%。川崎市は35%、札幌市は34%と、3人に1人以上が入れなかった自治体もあった。

 こうした事態が続いているのは、受け皿不足に加え、子どもを預けやすい最寄り駅近くなど、特定の地域に保育需要が集中しているという事情もある。

 担当者からは「交通の便が良く、園庭も備えるなど環境の良い認可施設を整備するのは難しい」「耐震基準を満たすなど保育施設に合う物件がなかなか見つからない」「保育施設を新設するのに近隣住民への理解が得られない」といった声も聞かれた。

 政府が幼児教育・保育を無償化する方針であることに対しては「実現すると、さらに保育の需要が喚起され、施設整備が追いつかなくなる」との懸念も出た。

 年齢ごとの申し込み状況をみると、1歳児が最も多く全体の36%。次いで0歳児が26%、2歳児が16%と、低年齢児に集中する一方、3歳児は13%、4歳児は6%、5歳児は3%にとどまった。

 認可外施設なども含め、4月までに子どもを入所させられなかった保護者は、育児休業を延長したり、仕事を辞めなければならなかったりする。育児休業を延長したうえで認可施設を希望し続ける場合などは、「待機児童」として数えられる。

 介護、医療、子育て、老後に関するご意見・疑問をお寄せ下さい

 メール ansin@yomiuri.com

 ファクス03・3217・9957

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