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認知症で万引き繰り返す…服役よりケアで再犯防止

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 有罪判決後の執行猶予期間中に万引きを繰り返すなどした認知症の高齢者らを刑務所に送らず、治療を受けさせながら社会の中で更生を模索する動きが広がっている。高齢者による犯罪の増加や、刑事裁判で高齢者らの弁護を担当する弁護士と社会福祉士との連携が背景にあるが、課題も少なくない。

施設・家庭で更生 広がる

認知症で万引き繰り返す…服役よりケアで再犯防止

 「(被告の)男性には刑務所以外の支援のあり方がふさわしいと思った」。1月末、窃盗罪で東京地裁から懲役1年、保護観察付き執行猶予3年を宣告された男性(80)の判決後、記者会見に出席した社会福祉士の今野由紀さんはそう話し、笑顔を見せた。

 男性は昨年5月、スーパーで食料品18点(4000円相当)を盗んで執行猶予付き有罪判決を受けたが、判決確定から10日後に再びスーパーで食料品15点(同)を盗み、逮捕、起訴された。

 「短期間に万引きを繰り返したのは病気が原因ではないか」。弁護を担当することになった梶浦明裕弁護士は疑問を抱き、今野さんが勤務する病院に男性を受診させて「脳 梗塞こうそく の後遺症で認知機能が低下していた」との診断書を得た。今野さんは高齢者福祉施設を探して男性を入所させるなど、再犯を防ぐ計画書を作成。弁護側が裁判に提出した。

 再犯の被告には実刑が選択されることが多いが、1月の地裁判決は、男性の犯行には認知機能の低下が影響していると指摘した上で、「施設では単独の外出が許されず、再犯の恐れは著しく低い」とした。男性の長女は判決後、弁護士を通じて「(判決は)父の病気や環境を踏まえて最後のチャンスを与えてくださり、本当にありがたい」とコメントした。

周囲のサポート態勢があれば…

 執行猶予中に再犯を犯した高齢者らに対し、実刑を回避した判決としては、高知地裁が昨年8月、万引きを犯した70歳代の認知症女性に「夫らが外出に同行するなど再犯防止が見込まれる」として罰金刑を選択した。また、神戸地裁は2016年、窃盗罪に問われた60歳代の女性に対し、認知症の影響を認めて実刑を回避し、再び執行猶予とした。

 ある刑事裁判官は「執行猶予中の再犯は原則実刑としてきたが、周囲のサポート態勢があれば実刑を選択しないことも増えてきた」と話す。

 16年に刑法犯で逮捕されるなどした65歳以上の高齢者は約4万7000人と、20年前の3.7倍に増加。また、法務省の推計では、60歳以上の受刑者の14%に認知症の疑いがあるとされる。東京社会福祉士会・司法福祉委員長の小林良子さん(61)は「認知症の高齢者による万引きなどは、服役よりも病院での治療や福祉施設でのケアが再犯防止につながる」と指摘する。

  社会福祉士  日常生活を送るのが難しい高齢者や障害者らに生活面で助言したり、医療機関や福祉施設、自治体などが連携してサポートできるよう仲介役を務めたりする国家資格。昨年11月時点の登録者数は約21万3000人。

社会福祉士 確保に課題

 東京社会福祉士会は2015年から、東京の三弁護士会と連携し、認知症や障害がある高齢者らが犯罪を起こした場合に、社会福祉士が弁護士と一緒にサポート態勢を組む取り組みを行っている。

 入院治療や福祉施設への入所など、被告ごとに「更生支援計画」を立て、時には法廷で再犯防止策を証言することもある。社会福祉士が高齢の被告らを支援するケースは東京で年間40件を超え、全国にも徐々に広がっているという。

 ただ、課題も少なくない。

 社会福祉士の多くは福祉施設や病院に勤務しており、被告らを支援する時には仕事を休まざるを得ない。また、東京社会福祉士会の場合、「更生支援計画」の作成費や交通費などが弁護士会から支給されるが、上限は判決までで総額5万円。判決確定後も治療や介護が計画通りに進んでいるか確認するが、交通費や通信費などは自費という。

 斉藤実・独協大特任教授(刑事法)は、「北欧などでは認知症などの高齢犯罪者を刑務所に入れずに更生させる流れをとることが多い。彼らの再犯防止は福祉の力なくして難しく、社会福祉士らの人材確保や費用面でのサポートの充実が必要だ」としている。

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