解説
もっと知りたい認知症
認知症だって、投げて打って…ソフトボールがつなぐ絆
センバツの季節に富士山麓でも熱戦
春の選抜高校野球大会が開幕し、甲子園球場では連日、球児たちの熱戦が続いています。そのさなかの3月25日、富士山麓でも、白球を追う熱い戦いがありました。
第5回全日本認知症ソフトボール大会(Dシリーズ)です。若年性認知症の丹野智文さんのコラム(3月27日公開)を読まれた方はご存じでしょう。
2014年に始まったこの催しについては、「全国各地から集まった認知症の人が、打撃に守備に躍動する」と、かねて耳にしていました。ぜひ一度、自分の目で見てみたいという念願がようやくかない、行ってきました。
独自ルールで真剣勝負
試合会場となった静岡県富士宮市の県ソフトボール場には、認知症の人や家族、福祉関係者ら約250人が集合。頭上には澄んだ空が広がり、間近に迫る富士山に見守られてのプレーボールとなりました。
神奈川からは60人、大阪からは30人を超える選手・応援団がやってきて、単独チーム同士で対戦。宮城、新潟、愛知、奈良などの選手も、二つの合同チームに分かれて戦いました。
試合は7回までで、制限時間は1時間です。各チームとも、守備につく10人の選手のうち7人以上が認知症の人で、打者には女性を含むなど、独自のルールがあります。開催地・富士宮の市民でつくる実行委員会が毎回、前年の反省をふまえて話し合い、改善を重ねてきたといいます。
その他は、一般的なソフトボールと一緒です。フォアボールもデッドボールもある真剣勝負です。
「外野にヒット!」のはずが悠々アウト…でもハプニングも楽しむ
スタンドで観戦していると、実に様々なことが起きます。打球が外野に届く大きなヒットとなったけれど、一塁まで悠々と歩いてアウトになる人。笑顔で打席に立った女性は、ヒットを打つと、にこにこしたままピッチャーに向かって走り出しました。そばにいた人が、慌てて一塁の方へと誘導します。打席の途中で、三塁側へふらりと歩き出した男性は、周りの人に呼び止められても、「もういい」というそぶりです。すると、すぐに別の人が代打としてバッターボックスに入り、試合が続くのです。
最初のうちは、予想外のことが起きると「一体、どうなるんだろう」と、ハラハラしてしまいました。これで試合になるんだろうか、と。でも、選手も応援の人たちも焦る様子はありません。それどころか、ハプニングが起きると、むしろ盛り上がっているくらいです。
「これでいいんだ」――。周りの笑顔を見ているうちに、そう思えてきました。実際、攻守の交代にちょっと時間がかかったり、ハプニングで少しの間、中断してしまったりしても、ちゃんと試合は進んでいくのです。
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